「お?なんでこんなに残ってやがる。」
ゾロがラウンジを開けるとそこにはサンジとルフィ、ウソップがいた。
「ゾロ!やっぱりお前も前夜祭がしたいか?!
肉食べたいもんな。な〜サンジー。」
「っておい!今夕飯食べたばっかだろ!
おうゾロ、実はな〜ルフィが大冒険の最中にナミからもらったこづかいを落とすというアクシデントが発生してな。
オレのこづかいじゃ2人分の食費なんてとても出せねーから早めに帰ってきちまった。
サンジがいてくれてホント助かったぜ。
ゾロは明日のパーティが待ち遠しくて早めに帰ってきたのか?
可愛いとこあるじゃねえか、剣士といえどやっぱり人の子だな。」
「アホかクソゴム。レディ達がいないというのにマリモ誕生日の前夜祭なんかしねーよ。
んなわけねえだろウソップ。マリモ剣士だぜ。
明日が誕生日パーティだってことも覚えてるか怪しいぜ。」
「んだそりゃ。・・・・ああ、そういやナミが言ってたな。」
そういえば島に出る時にナミがしつこく明日誕生日パーティをするから集まれと言っていた気がする。
さっさと島に出てサッパリさせたくて適当に聞き流していたが
わざわざ島に着いている時に集まることもないもんだと思う。
しかも自分の誕生日パーティだという。
「ほらみろ。やっぱり忘れてやがっただろ。」
「はあ〜。危なく主役のいないパーティになるところだったな。
まあよし!よく帰ってきたなゾロ。
そんなゾロには本日オレ様とルフィが体験したスリリングでスペシャルな冒険譚を特別に話してやろう!」
その時、ドアがバタンと開きチョッパーが顔を出した。
「おかえり、ゾロ!もう帰ってきたのか、早いな!
もう眠いか?大丈夫だよな?男部屋に用があるか?
い、今男部屋で大事な秘密な調合やってるから入ってきちゃダメだからな!」
しどろもどろに、だが顔を輝かせていうチョッパーが微笑ましくてサンジとウソップは思わず苦笑いする。
「あーチョッパー、わかったわかった。
アル中剣士は夜中までここで飲んだくれる予定だ。
心配しないでさっさと戻れ。」
「ん?秘密ってなんだ?チョッパー。
旨いもんか?!」
「いい加減食い物から離れろっつーの。
おう、チョッパー。オレとルフィも当分男部屋には行かねえから、安心して続きをやってくれ。」
「「ん?」」
わけがわからない船長と剣士は揃って首をひねっている。
「うん!ありがとうな、皆!」
チョッパーは元気にパタパタと男部屋へ戻っていった。
ゾロとルフィの疑問がカタチになる前にテーブルにはズラリと料理が並ぶ。
「オラ、クソ剣士。どうせ迷子だったんじゃねえのか。
さっさと夕飯食っちまえ。
クソゴムと長っ鼻には特別にデザート第2弾だ。
長っ鼻、クソゴムが夕飯第2弾を始めねえように甲板に連れていけ。」
「ウホウ。ウマホー!」
「ラッキー!これだから上陸してても船の料理が恋しくなるんだよなー。
よしルフィ、行くぞ。」
よくわからないが、腹がヘっているのは事実なのでゾロは素直に着席した。
慌ただしさが去り、2人きりになったラウンジにはサンジの食器を洗う音だけが響く。
航海の間はメシの時間にはムリヤリ叩き起こされるからこんな静かな食事は随分久しぶりに感じる。
黙々と食べるゾロの前にはサンジの後ろ姿がある。
・・・・・・・締まりの良さそうなケツだな。
まずい。
せっかく美味いメシを喰ってるというのにこんなに無防備に後ろ姿を晒されるとメシに集中出来なくなりそうだ。
ゾロは思いを振り払うようにガツガツと料理だけを見つめ続けて完食した。
「ごっそさん。」
口をモグモグさせながら流しに食器を運べばようやくサンジが振り向いた。
「おう。どうする?
このまま晩酌に突入するか?
日付が変わればテメエの誕生日だからな。
それなら特別にとっておきの酒を出してやるぜ。」
「おう。する。」
とっておきの酒という言葉にゾロは迷いもなく答える。
そしてテーブルには輝いて見えるほどの大吟醸とちょっぴりずつ盛られた旨いアテが並べられた。
だが再び目の前にはピチピチのケツを晒したサンジの後ろ姿がある。
いや、もちろんちゃんと服に覆われたケツなんだが。
ムムムとゾロは考える。
だが、思慮に向かない頭で考え始めるとこんな美味そうなケツから目を逸らす理由がさっぱりわからなくなる。
わざわざ目を逸らすことが面倒くさくなったゾロは堂々とサンジの後ろ姿を肴にしながら酒を堪能することにした。
普段は酒といえばワインやビールが大半を占めるが、米の酒の喉越しはまた堪らなく美味かった。
だが、ゾロの思考はどんどん別のものに集中し始める。
クソッ。プリプリした美味そうなケツを晒しやがって。
ピンクのエプロンの紐が腰の上で結ばれてケツの上でフリフリと踊っているように見えやがる。
黄金色の髪に隠されたうなじがチラチラと見えて卑猥だ。
シャツなんぞで肩甲骨やわき腹を覆っちまうから余計想像が掻き立てられて暴きたくなるんじゃねえか。
見当違いなことにゾロはミニスカートを履いた娘を破廉恥だと注意する父親のように、サンジを咎めたくなった。
滅多にない大吟醸だというのに、どれにでも手を伸ばすことが出来るなら迷わずあの後姿を選びそうだ。
あれは触れたくても触れられないのだからそれも仕方ねえ。
いや触れられないんじゃなく、触れないと己が決めたのだ。
この程度の酒量で酔うはずもないゾロだったが、今は何か別のものに酔わされそうな気がした。
「さてと。
オラ、オレにも一杯よこせ。」
片づけが終わったサンジが珍しく自分の分のグラスを用意して席についた。
「珍しいな。」
「お前みたいなワクに大吟醸を一人占めさせんのはもったいねえからな。」
「よくこんな酒見つけたな。」
「おう聞いて驚け、そして島の特産物を把握できない己を悔やめ。
前に赤飯ってやつを炊いたことがあったろ。あの直前に寄った島がな−−−。」
しばらく他愛もない会話が続いた。
実はサンジは肝心の話が切り出せなくてウズウズしていた。
サンジは程良く酔いが回った頃、突発的にグラスとダンッとテーブルに置いてキッとゾロを睨みつけた。
「おいゾロ!オレは聞く、聞いてやるぞ!
テメエ、ナミさんのことをどう思ってやがるんだ!!!」
「あ?ナミがどうした。」
2人きりということもあり、サンジは少しゾロに張り合っているのか飲むペースがいつもより早いようだ。
ほんのりとピンクに染まる頬や首筋は艶めかしく、潤みはじめた瞳は目の毒だ。
なのに出てくる言葉はいつも通りのアホで意味がわからない。
「だから!テメエはおこがましくもナミさんを好きなのか?!
ってゆーか、んなこたどうでもいい!
ナ、ナミさんにお、想われちゃってッ!ちゃってッ!
ウッ、ウッ、嘘だと言ってくれナミさ〜ん。」
呆然とするゾロの前でサンジは突然怒り始めたかと思えば、プルプル震えてテーブルに突っ伏してシクシクと泣き始めた。
あいかわらずとびっきりのアホだとゾロは思う。
だが頭のつむじさえアホ可愛いくて、顔をあげさせたいとゾロは思った。
「よくわからんがナミが好きなのは俺じゃねえぞ?」
なんとなくそういう話をしてるんじゃないかと当たりをつけて答えてみる。
サンジはピタッと泣き止むとズビッと鼻を垂らしながら、アホな顔をゾロに向ける。
「なんでだよ。ズピッ。
だったらナミさんがあんな誘いをテメエにかけるわけねえじゃねえか。」
「わけがわからねえ。
ってゆーか本当にそんなアホなこと言ってやがったのか。」
その泣き顔を間近でジッと見ながら自分はあらぬ想像を掻き立てられるというのに。
どういう構造をしてるのかわからないがあまりにもアホなサンジが哀れになってくる。
「だってよう−−−。」
サンジは納得がいかないとばかりに、以前の島での話をはじめた。
「・・・・・・・ああ、あの時か。」
ナミは元々たった一人で海賊や男共を相手に渡りあってきた女だ。
一番最初、ルフィとナミと3人で行動を共にし始めた頃は自分は当然のように野蛮な男として警戒されていた。
もっともな話だがその頃にはとっくに男専門になっていた自分は見当違いの警戒が面倒くさく早々に
『俺は女は抱かねえ。』
と事実を伝えた。
途端にナミはおもしろがるような、珍しいものを突つくようなちょっかいをかけてきてウンザリした。
そんな事はすっかり忘れてたあれはココヤシ村を出発した頃だったか。
やたらとナミが近づいて来るようになり、さすがにおかしいと感じた。
今思えばあれは俺とルフィが2人でいる時だったのかもしれない。
ある夜ナミに聞かれた。
『あんた、この船に好きな人がいるの?』
なんとなく面倒くさそうな質問を俺はハッキリと切り捨てた。
『男でも女でも仲間に手は出さねえ。』と。
だからナミはとっくに俺が男専門なんだと知っている。
サンジの言う以前の島では最悪だった。
スコールでびしょ濡れになったサンジはシャツが肌に貼りついて下手な全裸よりよっぽど男を煽る格好なのに無防備でいる。
ナミに堂々と宣言したクセにあの時の自分は、サンジに欲情しそうになるのを必死で抑制している状態だった。
あれはナミなりの助け船だったんだろう。
ゾロは宣言したことを貫く程度で助けが必要だとは男の恥だと思うが
同時にスケスケのサンジにヘッドロックで連行されて明かした一夜の忍耐は想像を絶するものだったと思い出す。
思い出しはしたがサンジに何をどう説明すればいいのか見当がつかない。
問われれば何一つ隠さずに答えられるが、自分から順序だてて説明するなど不得手もいい所だ。
思考に囚われて黙っていると横で酔っぱらったアホが勝手にウンウンと頷いていた。
「そうだよなあ。オレもバカだな。
ナミさんがマリモを想うわけがねえじゃねえか。
そんな失礼な疑いを持つなんてレディに対する侮辱だぜ、なあ?
なっ?マリモ。ナミさんはテメエなんざに恋してるわけがねえ。だろ?」
アホがニパッと全開の笑顔を向けてくる。
「そりゃそうだろ。」
別の奴を想ってはいるかも知れないが、どうでもいいしよくわからねえ。
「でもってテメエもナミさんやロビンちゃんに恋したり邪な思いを持ったりはしてねえな?
じゃねえと海に沈めるぞ?お?」
途中まで笑顔だったが、最期はチンピラのように睨みつけて訊いてきた。
「あいつらをそんな対象にしてねえよ。」
テメエを邪な目全開で視ちまってはいるが。
よくわからないが俺の応えはいたくサンジのお気に召したらしい。
向かい合って飲んでいたというのにサンジは途中から俺の隣りに座りなおして酒を勧めてきた。
「よく言った!さすがだぜロロノア・ゾロ。
ビビちゃんの言ってたブシドーってのは分をわきまえるっていう意味もあんのか?
それでこそオレもチョッパーに知恵を貸した甲斐があるってもんだぜ!」
完全な酔っぱらいサンジは肩をバンバン叩いて密着してくる。
ゾロは大吟醸とグラスを両手に確保してこれ以上サンジに飲ませないように、自分の手があらぬ所を彷徨わないようにした。
「アホか酔っぱらいが。
わけわかんねえこと言ってないでさっさと風呂にでも行ってきやがれ。」
時刻はいつの間にかあと半時ほどで日付が変わる時間を指していた。
「ハハハッ。そうだな。よしっ、オレは風呂に行くぜ!
テメエはチョッパーがいいって言うまで男部屋に降りちゃダメだからな。
邪魔しねえようにちゃんとここでアル中でもしてやがれ。」
朝言われたこともあり、チョッパーのやっていることが自分の誕生日関係だということはゾロでも察しがついた。
「ああ、わかった。」
やっとサンジの密着から解放されてゾロは胸と股間を撫で降ろしたい気分だった。
だが出ていくと思ったサンジが扉に手をかけた状態で振り返る。
サンジがニッコリと全開の顔で笑う。
「テメエさ、明日でハタチになるんだよな・・・・・・・。
よしっ!めでてえ誕生日だ。
実はオレ、すっげえHなもんを持ってるんだけどよ、明日のパーティの後でクソマリモにHなバースデープレゼントとしてくれてやるぜ。
ひゃはは。チョッパーじゃねえけど相手が喜ぶかも知れねえって思いながらプレゼント用意すんのは楽しいもんなんだぜ。
いらねえ世話だけどよ、テメエも誕生日を楽しみにする気持ちをちっとは味わえよ。んじゃな!」
取り残されたゾロはしばらく呆然として動くことが出来なかった。
サンジと入れ違いになるようにチョッパーがラウンジの扉を開ける。
「ゾロ。もう終わったから降りてきてもいいからな。エッエッエッ。
う、うわああ!どうしたんだ、ゾロ!いっ、医者ぁああ!」
チョッパーに叫ばれた時には鼻から盛大に血が流れ床に血の池ができていた。
2004/11/30