―――――――そんなサインはひとつもなかったハズだ。
―――――――ゾロは期待しそうになる自分を落ち着かせる為に努力した。
誕生日には誕生日パーティをして祝うんだ。
それはこの船に乗って初めて知った習慣だ。
『誕生日おめでとう』って言うんだ。
その中にはすごい気持ちがいっぱい詰まってるんだぞ。
『あんたが生まれてきてくれて嬉しい。』
っていう気持ちだってナミが教えてくれた。
『あなたと出逢えて嬉しい。』
っていう気持ちだってサンジが目をハートにして歌った。
『生んでくれた親に感謝する。』
っていう気持ちだってゾロが言った。
『う〜ん。やっぱり今日まで生きたのは誰かが望んでくれて、誰かに愛された証拠だからめでてえんじゃねえか?
いや、まて。オレ様が詳しく話してやろう。そう!あれはイーストブルーに勇者ウソップの名が轟きわたった頃の話だ〜(省略)』
っていうすごい話をウソップが語ってくれた。
『確かにたった一人の特定の人物に出会う確率は、とてもすごいものになるでしょうね。』
ってロビンがそのすごさを分析してくれた。
『んんっ!とにかくめでてえな!!』
シシシシッってルフィが笑った。
たくさんのすごい気持ちが詰まってるんだ。
初めてオレの誕生日パーティーをしてくれた時はすごくすごく嬉しくって涙が止まらなかったんだ。
だからオレもたくさんたくさん気持ちを詰め込んで『おめでとう』って言いたいんだ。
仲間の誕生日が近くになるとワクワクしてドキドキする。
サンジがナミの誕生日にプレゼントをしてたように今回はオレもちゃんとプレゼントを用意するんだ。
こんなにワクワクして考えるだけでウキウキしちゃう誕生日がオレは大好きなんだ。
「ゾロ!なあ、ゾロ。ゾロの欲しいものってなんだ?」
「なんだそりゃ。」
後甲板で脇目もふらずに汗を飛ばして鍛錬をしているゾロにチョッパーは訊ねた。
本日は11月10日天気は快晴、風はちょっぴり肌寒いけど陽射しはホコリと身体をあたたかくしてくれるそんな陽気だ。
GM号は順調に航海を進め、もう目で捉えられる距離にある紅葉がキレイな秋島に寄港しようとしていた。
「明日はゾロの誕生日だろ。もうすぐ島に着くからオレに買えるものならゾロにプレゼントしてやるぞ!」
チョッパーはエッエッエッと笑みをこぼしながらゾロに聞く。
「いや買えるもんで欲しいものは特にねえ。
悪いな、チョッパー。」
ゾロはキラキラと目を輝かせているチョッパーに少し申し訳なさそうに応えた。
「う、ううん。悪くなんかねえよ。じゃあ楽しみにしてて。ゾロ。
オレ、ゾロがビックリするようなプレゼントしてやるからな。」
実は初めから内緒でプレゼントを用意してゾロをビックリさせてやろうと思っていた。
けれど沢山考えてもゾロが喜ぶようなプレゼントがどうしても思いつかなくて、思い切って本人に聞いたのだ。
リクエストもなくなってしまい、ちょっぴり途方に暮れるチョッパーだった。
新鮮な魚、収穫したばかりの色とりどりの旬の食材。
サンジは豊富な食材に目を奪われ、上機嫌で市場の中をめまぐるしくまわった。
ちょうど収穫期になっていた島の食材は素晴らしいものばかりだった。
明日はクソマリモ、もといロロノア・ゾロの誕生日だ。
マリモが好みそうな食材、料理、酒、そんなものもちゃんと頭の片隅に入れて買い出しをしていく。
麦わら海賊団では誕生日パーティは、島に寄港している時でもゴム船長と予算の都合で船上で行うことが決まっていた。
食材の心配をしないで、予算内でたっぷり豪華なパーティをするのはサンジにとって純粋に楽しいことだった。
だがサンジは誕生日のことを考えるとひとつだけ不安になることがある。
オレとタメのゾロの誕生日ってことは明日で20才になるってことじゃねーか。
男のハタチっつったら、すげえ特別なもんだ。
なんてったって大人の男として、包容力のある男としてレディをメロメロにさせることが出来る年だ。
その20才に明日ゾロがなる。
サンジがハタチになるのはまだ約4ヶ月ほど先の話だ。
一足先にハタチになったゾロに・・・・・・・・。
ナ、ナミさんがメロメロになったりしたらどうしよう。
今のサンジにはそれはとてつもない心配事だった。
オレだって以前ならこんな考えは思いつきもしなかったはずだ。
だが今はヤバいことに不安になるだけの根拠がありやがる。
あれは2つ程前の島に寄港していた時だ。
その島でオレは懲りずに迷子っぷりを披露してくれたゾロを偶然見つけだし帰る途中だった。
ナミさんの宣言通りにひどいスコールが降りだして慌てて町の宿屋に逃げ込んだ。
そこで降りだす直前に宿へ入ってちょうどチェックインを済ませたばかりのナミさんが女神のようにオレ達を出迎えてくれたんだ。
優しいナミさんはオレ達の為に部屋の追加(と値切り交渉)をしてくれてツインルームを確保してくれた。
シングルルームはナミさんの部屋が最期で満室になってしまったらしいが、どうせオレらなんだからツインルームで全然かまわねえ。
宿に泊まる時は野郎共はいつもツインルームに3人詰め込んだりしてるんだからな。
なのにナミさんは困ったように
「・・・・・・どうする、ゾロ?100万ベリーであたしがゾロとツインルームに泊まってあげるわよ?」
なんて仰ったんだ!!!
しかも意味が把握できずに固まっているオレの隣りでゾロが迷う素振りを見せやがった!
それってどういうことだよ!
「ツインルームなんざオレとマリモで充分に決まってるじゃないですか、ナミさん!
麗しいレディは個室でゆっくり一日の疲れをとってください。オラ、腐れハラマキ!さっさといくぞ!」
慌ててオレはナミさんから部屋の鍵をうけとって、マリモの首をひきずって連行したからその日は無事だったんだが。
あれ以来オレはナミさんとマリモの関係が気になってしかたがない。
ナミさんとマリモの関係を疑うなんてあまりにもバカバカしいことだから直接ナミさんにあの日のことを聞いてみても
「わからないならわからないままでいいのよ。個人のことなんだし。」
って言われちまった!!!
それってどういうことですか!?ナミさん!
オレはもしかしてもしかしちゃうと惹かれ合う2人の邪魔をした鈍感なお邪魔虫なんですか!?
そんなわけがねえ!
ナミさんとマリモなんだからそんなわけはねえんだけどよ!
だがあの日の様子をただの男女に置き換えて考えてみるとだな。
優しくて可愛いくてでもちょっぴり照れ屋なレディがよ。
想い人と出くわした突然の状況に勇気をだしてメロメロに可愛く高飛車に
『一緒の部屋に泊まってあげようか?』
って誘うんだ。
まだハタチになってなくて堂々とレディを受けとめる資格のねえ男はすっげえ嬉しいけど戸惑って迷っちまう。
ぬぅぉおおおおおおお!
そんなわけがねえだろうが!!!
ナミさんがマリモを想うわけがねえ!
マリモが分不相応にナミさんを想ってたら海に沈めちゃる!いや、湖か?!
だけどナミさんに悲しい思いをさせるなんて冗談じゃねえ。
っていうかそんなお邪魔虫をやっちまったとしたら恥ずかしくてナミさんに顔向けできねえよ。
だがマリモがナミさんに触れようなんざオレは全身全霊をかけて阻止するぜ。
「ぃ、おい!兄ちゃん、兄ちゃん!!」
「あ、なんだ。オッサン。」
果物屋の親父が苦笑いしながらオレの肩に手をかけていた。
ヤベエ。思考にハマり込み過ぎちまったらしい。
「いや、兄ちゃんの百面相はすごくおもしろいんだけどな。
頼むから店先でやるのは勘弁してくれや。」
うお。こっ恥ずかしい。
「悪かったな。オッサン。
詫びがわりにコレとコレを箱ごと3箱ずつもらえるか。
色々まわったけどコレの新鮮さには一目惚れしたぜ。」
「おっ、兄ちゃんわかってくれるか!
よしっそれだけ買ってくれるならコレを半額にしとくがどうだい?!」
「ホントか、オッサン!
よしっ。じゃあソレは箱丸ごとくれ。」
「ヘイ。毎度ありぃっ!」
そんな買い出しの帰り道、
「うおっ!・・・・・コレって・・・・・。」
サンジは想像もしなかった人から信じられないモノを受け取った。
「ただいま〜。」
お昼をだいぶ過ぎた頃、トボトボとチョッパーがGM号に帰ってきた。
「う、うおっ!ちょ、ちょっとまてチョッパー!!」
ラウンジを開けるとサンジが慌てふためいてワタワタと戸棚をバタンと閉めて振り返った。
顔が真っ赤になっている。
「?どうしたんだ、サンジ。」
「い、いや!なんでもねえ。なんでもねえったらなんでもねえ。
それよりチョッパー、船番でもないのにどうしたんだ?」
クルーは皆、船番以外は明日の誕生日だけGM号に集合ということになっている。
この島のログは5日後に溜まるそうだ。
だが元々おこづかい分を全て早々に喰い尽くしてしまう船長や、借金大王の剣士など
寄港している間も船に食や宿を求めて帰ってくるクルーが多いGM号だ。
サンジはチョッパーもお腹がすいているのかと予想した。
「うん。オレ、誰かに相談したくて帰ってきたんだ。
オレ・・・・・オデ、ゾロの誕生日にプレゼントあげだいのに、なにあげでいいかデンデンわがんないんだ。」
サンジは必死で簡単に泣くものかと涙を我慢しているトナカイが誕生日や仲間の誕生日パーティーが大好きだということを思い出した。
クルリとチョッパーに背中を向け作業を始めながらサンジは柔らかい声を投げる。
「ふうん。クソ剣士へのプレゼントねえ。
確かにあんなデリカシーもセンスも物欲もなさそうな奴にあげるプレゼントは想像つかねえなあ。
でもチョッパー、誕生日だからってプレゼントあげなきゃいけないって決まりはないんだぜ?
他の奴らだってプレゼントなんざ用意してねえと思うぜ。
要は一緒に祝うのが大事なんじゃねえの?」
「でも!でもっオデはあげだがっだんだ。ズルルル!
オレの誕生日、皆が祝ってくれたのすごく嬉しかったから。
サンジがナミの誕生日にプレゼントあげてたのすごくいいなあって思ったから。
たくさんオメデトウが入ったプレゼントをしてゾロに喜んで欲しかったんだ。」
チョッパーは鼻水をすすりながら必死に思いを伝える。
コトリ。
暖かい湯気のたつ食事がテーブルにのせられた。
「ハラが減ってる時ってのは良い考えが出ねえもんだぜ?
オレも知恵貸してやるからまずは食え。」
優しく微笑むサンジにチョッパーの目にまたブワッと盛り上がりかけるものがあった。
今泣き始めてはせっかくの暖かい料理がもったいない。
「うんっ!」
目をゴシゴシと擦りながらチョッパーは元気良く頷いた。
チョッパーのお腹が匂いにつられたのか、ぐきゅるるると主張をはじめた。
サッパリした。
ロロノア・ゾロは暢気な足取りで船までの帰り道を彷徨っていた。
最近のゾロは寄港すると船長並に真っ先に島へ飛び出し、用事が済めば迷子ながらも夜までに帰ってくるというパターンが定着していた。
それは以前のゾロにはなかった習慣だ。
以前のゾロなら島についたのも気づかずに寝こけていたり、
島へ降りるのが一番最期で寄港1日目はなし崩し的に船番になることが多かった。
ゾロもそれを特に不満とも感じていなかった。
毎回色々と用事がある他のクルー達と違い、たまに刀関連の用事があるくらいのゾロは陸でも海でも違いをあまり感じていなかったからだ。
それが最近は島が待ち遠しくなるくらい切羽つまる部分があった。
自慰では追いつかない程たびたび込みあげる衝動を落ち着かせるために
ゾロは最近島へ寄港するたびに誰よりも早く適当な相手を見繕って宿にシケこんでいた。
今も計4発をヤってきた帰り道だった。
寄港した島々でHの為の相手を見繕えるとは思いもよらないサンジを上回るナンパ能力だ。
大剣豪を目指して村を飛び出してから早、数年。
未来の大剣豪ロロノア・ゾロは立派なゲイになっていた。
童貞を捨てた初めての相手こそ確かに女だったのだが、童貞だったにもかかわらず
ご立派なブツで女を失神させてしまった当時のゾロは抱くだけで壊れそうな女にハッキリと苦手意識を持ってしまった。
そんな時誘われたネコでマッチョの壊れそうにない男によってゾロは新しい世界の扉を開いてしまった。
開いてみるとゲイの世界は存外居心地のいいものだった。
相手や場所によるかもしれないが、大体において試しにヤるということが許されている世界だ。
お互い吐き出したいものがある男同士だ。
女のように愛を語り合うのが先なんていう奴も常識も滅多にない。
お互いがお互いを選べば、どれだけ気持ち良くなれるかどうかが優先といわんばかりに会ったその日の晩に当然のようにヤることが出来た。
そして若くて逞しいゾロはどこへいってもモテまくった。
脱いでみればご立派なブツはもっとモテた。
相手から進んで酒を奢ってもらい、金のやり取りもなく、口説くことさえしないのに抱かれることを望む人間に出会える。
ネコになったことがないので抱かれたがる人間の気持ちはイマイチわからなかったが、
孤独な放浪を続けるうちにゾロはこの世界から出る気は全くなくなっていった。
感を多少応用して見分ける目さえ持てば、町があれば大抵出会える世界やその人間達はゾロにとってとても便利なものだった。
サンジを海上レストラン『バラティエ』で初めて見た時は
『次に相手を探すときはこういう細身の奴にしよう。』
と思う程度に姿、形が好みなだけだった。
それがいつからだろう。
これ程にあのクソコックが欲しくてしょうがなくなったのは。
似た部分がほんの少しある程度の人間を抱いても満足できなくなったのは。
女一筋だと聞くまでもなくわかるサンジに抱かれる男の快楽をムリヤリ与えたらどうなるのかと想像するようになったのは。
自分の考えをバカバカしいとゾロは嫌悪する。
以前ゾロはナミに宣言していた。
『男でも女でも仲間に手は出さない』と。
言った時は言うまでもない当たり前なことだと考えていた。
この船に乗るのはそれぞれが自らの野望への道を進む者達だ。
今でもそんなことは当然のことだと思う。
だが今は同時に。
約束しておいて良かった、とも思っていた。
手を出さないという約束がある。
コックは女好きだ。
俺には野望だけがあればいい。
だから俺はクソコックには手を出さない。
2004/11/25