俺は、どうするべきなんだろうか。
ここでゾロを待つ。
ルフィたちと行く。
4年、待った。
もうこれ以上待っても

待っても?何だ。

戸締まりをしてフロアの灯りを落とし、2階へ上がる。
ベッドにどさりと体を投げ出して、天井を見上げた。
小さな店。小さな家。海の上の船と違って、揺れる事のない天井。

ウソップの言葉を聞いたときから、本当は自分の心なんて決まってた。
俺はオールブルーを見つけた。
俺の夢は、もうかなったのだ。
迷う事なんか、なかった。


その夜、はじめてゾロを思って自慰をした。
ただ一度だけ俺に触れたゾロの指先、手のひらを思い出して。
浅くしかつけない吐息の合間に見れば、緑の頭を伏せて俺の乳首を執拗に嬲っていたゾロ。
ざらりと舐め上げたり吸いついたり舌できつく押しつぶしたり、俺の乳首を散々に責め立ててくれやがったゾロ。
ゆっくりと脇腹を撫で上げる熱くでかい手のひらの感触を、俺はまだ憶えている。
とんでもない所にもぐり込んで、人の体にやらしいイタズラをしてくれた指を。
自分の体の中深いところで蠢く指の形すら、俺の体は憶えている。

こらえきれない吐息を荒らげ、体を丸めて射精した。
手のひらに、精液。
愛、だろうこれはもう。



翌朝、野菜を届けに来てくれたおやじに、明日からはもう必要ないと告げた。
「なんだい、行っちまうのかい?」
お人好しでいつもおかみさんに叱られてばかりのおやじが、残念そうにそう言った。
「長い事世話んなったけどよ。仲間が迎えに来たんだ。」
「そうかぁ。よかったなあ、サンジ。」
人の事なのに、おやじは嬉しそうに笑ってくれた。
「ああ。ありがとうよ。」
俺も、笑った。



出航の朝。
店を綺麗に掃除して、ドアには鍵をかけずにそこを後にする。
いつかのように、麻のリュックひとつに包丁セットの入ったカバンをさげて、俺は港に着いた。
久しぶりに見るメンバーは、どこかみな少しづつ変わってはいたけど、やっぱり仲間だった。
ロビンちゃんだけは変わりなく美しく、ナミさんは大人の女性の色気が加わり(加えたのはクソゴムだと思うと腹も立つが)、チョッパーは相変わらず小さいながらも微妙に間延びした感じのトナカイになっていた。
みんなに、4年前の事を散々に怒られた。
問答無用でボートに押し込まれた事を怒り、泣き、叱り、そして許してくれた。
誰も、ゾロの行方を聞いてはこなかった。ウソップが前もって言っておいてくれたのだろう。
「よお、サンジ。」
ルフィも当然見てくれは大人びていたが、その口調は昔のままだった。
4年ぶりだというのにそれ以上懐かしむ言葉も責める言葉もなく、
「早くおめぇのメシが食いてえな!」
と満面の笑みを浮かべていた。

「いいのか?」
デリカシーのかけらを残していたウソップが、俺の側に立って聞いてきた。
『オールブルー、折角見つけたのに。』
いいのか?と。
「ああ、いいんだ。」
オールブルーは確かにあった。それでいい。
また戻れるかどうかなんて、二の次三の次で。
確かに存在していれば、それでいいんだよ、ウソップさん。

ウソップの女房と子供は、もう船に乗っているという。
子供を船に慣らすために、2日前から船上の暮らしをしているのだと。
それによると、子供はよく笑いよく泣き、乳を飲んで眠るという。
「船向きの子供だ!」
ルフィが楽しそうに笑った。
みんな、笑った。

足りないものは、自分で奪いにゆく。
それが海賊なら、俺はいつまでもオールブルーに留まってはいられない。
欲しいものは、自分で奪いにゆく。それがどこにあるのか、全くわからないけど。
おお。
ぽん、と手を打ちたい気持ちになった。
ゾロがどこにいるのか、全くわからない。
オールブルーがどこにあるのか、全くわからない。
状況は似てないか?
ただ、オールブルーは伝説の海で、本当にあるかどうか謎の海だった。
それを俺は見つけた。
だったら、ゾロの一人や二人ぐらい苦もなく見つけられるだろう。
簡単な事だ!

一カ所に留まった4年も、俺には必要な時間だった。
そして、これから迎える長い時間も、必要な時間なんだろう。
ゾロを見つけるまでの、時間。
絶対、見つけてやる。
どこにいても、見つけだしてやる。コックの嗅覚、舐めんなよ。

簡単だ。
オールブルーを探す事に比べれば、ゾロひとりぐらい。
簡単すぎて、涙が出そうだ。
けけっ。

「なぁ、サンジ。」
「おお、何だ。」
ウソップがぽりぽりと頭を掻いている。
「泣くなよ。」
「誰が泣いてるってー!?」
ぐわっと怒った俺に、ウソップは本当はびびってなんかいないくせに、「おわっ」と声をあげてのけぞった。
「サンジー!」
ルフィが叫ぶ。
「乗れ!出発だ!!」
「おう!」
次の島に着けば、4年ぶりにタバコが吸える。
これはうれし涙だばかものが。

船尾から遠ざかる島を眺める。
ルーシとルガイヤは別れを惜しんで泣いてくれた。
八百屋や魚屋、肉屋に漁師、近所のレディやマダムたち。
みんな、口々に別れの言葉や先を祝福してくれる言葉をくれた。
俺が海賊だって知ってるのに。
でも、あの島の人達はその「海賊」が何かさえもわかってなかったんだろうな、と思うと笑いがこみあげてくる。
最後までオールブルーは優しかった。


「風が変わるわ!」
ナミさんの言葉に、全員があちこちに散らばる。
「よーし!全速前進!!」
嬉しそうなルフィの声。
4年ぶりの海に俺も、いつになく胸の高鳴りを押さえきれない。
もう、待たない。
待ってろゾロ。
絶対に探し出してぶん殴ってやる。

待ってやがれ。
ぶん殴って蹴り飛ばして、セックスの続きなんかもてめえとしなくちゃならねえ。
今度はちゃんと入れろよヘタクソ剣豪。

覚悟しやがれ。

無性に笑い出したくてたまらない気分だった。
青い青い空、青い青い海。

どこかにきっといる大馬鹿剣豪。






                                          END




   
     すごい。大好きです。(こんな所で告白)
     
GOLD FISHきぬこ様のロロ誕生日部屋の小説です。
     ダウンロードフリーに便乗して
強奪しちゃいました。
     私はこんな風に悩みを自分自身で吹き飛ばして前を向くサンジが大好きです。
     
きっと次に会った時はサンジがバッチリ主導権を握るんでしょうか。
     愛を自覚したラブコックに敵うハズがありませんからvvv
     
         


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