――――――『Happy Birthday!あなたと出会えて嬉しいわ。』
――――――ねえ。本当にそう思ってる?・・・・本当にそれは私が貰ってもいい言葉なの?


Happy Birthday?


「ストレートフラッシュ。」

「グゥッ。フッフフッ、素晴らしい。どうやら今宵お嬢さんは幸運の女神に微笑まれているみたいですね。」
紳士は痛恨の結果に激しく動揺したが、それまで少女に見せていた余裕を必死に保とうとした。

「あら、おじ様。運だけで勝てたとは限らないわよ。」
ひとつのテーブルの前で身なりの良い紳士と青いスリットの深く入ったドレスを綺麗に着こなしたオレンジ髪の少女は
穏やかに微笑みあった。

「ハハハッ。おもしろいお嬢さんだ。余程自信があるようだね。」

「えへへ。ほんとはよくわからないわ。でも私、今日は絶好調みたいなの。」
オレンジ髪の少女はわざと首を傾げて、ことさら無邪気に笑った。
まるで自分の容姿にまだ残る幼さを強調するかのように。
そんな美少女の仕草に紳士は邪な視線を悟られないように走らせた。

「それは素敵なことだね。ではどうかな。絶好調のお嬢さんに相応しいように少しレートをあげてみようか。」

「あらいいわね、おじ様。どのくらい?」

「勿論お嬢さんの望むだけでかまわないよ。」

ニッコリとさも優しげに微笑んだつもりの紳士はだが瞳をイヤらしく歪ませている。
少女はう〜んと俯いて考えこんだ。
その俯いた少女の広く開いた胸元をみて紳士は下卑た笑みを口に浮かべる。
俯いた少女の瞳もキラリと輝いた。

「んっ!じゃあ今のレートの100倍ね♪」

「ひゃ、ひゃくぅううう?!!!!」
ガビーンと紳士の顎がこれ以上ない程ひらいた。鼻水もちょっと出た。

豪奢なシャンデリアが輝いている。
切り立つ崖の上にあるその建物は町からも港からも遠く離れていた。
そこへ訪れるには只1つの道を延々と長時間かけて登ってくるしかなかった。
建物は鬱蒼とした森に囲まれ、木々は崖のそばにたつ建物を包囲するかのようにそびえ立っている。
立地だけを考えればその建物はひっそりと静まりかえっている様を想像してしまうだろう。
だが建物の中はそんな立地条件など一蹴するように大勢の人で賑わっていた。
男も女もドレスアップし、所狭しと色々な機材が置かれた大広間の中である種の熱気を発しながら魚のように泳ぎ回っている。
よく見ればいたる所でそれぞれのドラマが繰り広げられているのがわかる。
ある者は興奮のあまり叫びだし、その横で絶望に膝をつき号泣しはじめる者がいる。
またある者は助けを周囲に求めたが暗黙の了解でか誰にも手を差し伸べてもらえず、
屈強な男2人に挟まれて引きずられて扉の向こうへ連れ去られていく。
そこは命さえコインの一つに成り代わり、負ければ死が待ちかまえ、
勝てば巨大な富が約束される裏カジノだった。


「せっかくこんな場所で遊べるんだもの。冒険してみたいわ。ねえ、おじ様もそう思わない?」
顎が開いたままで固まっている紳士に少女はニッコリと笑いかけた。

「ちょっ、ちょっと考えさせてくれるかい。」
紳士は慌てながら勝算を考える。
今日は始めから今まで負けた分を取り返そうと自分より絶対に弱そうなカモだけを探していた。
地元に帰ればそこそこの地位と権力を振り回せる身分だが、その資産を掻き集めてもこんな敷居の高い場所には20年に一度これるかどうかだ。
それでもここへ来て無事に帰れば、自分はようやく政治界の裏権力者達に仲間入り出来る程のステータスを得るだろう。
実際にはドレスチェックもなく一文無しでさえ来れる場所だったが
厳格な敗者に待ち受けるベールに包まれた死が、畏怖と同時にとてつもないステータスを作り上げていた。

第一相手は心細そうにポツンと立っていた所を優しく声をかけたらノコノコと警戒もしないでこのテーブルに座ったような小娘だ。
小生意気だが無邪気そうな笑顔はこのカジノの怖さもよくわかってない初心者に違いない。
始めから小娘には相応しくない大金のチップとその躰をカモにしてやろうと狙っていたとも知らずに、
プルルンと素晴らしく豊満な胸を惜しげもなくチラつかせている今時の小娘だ。
エセ紳士は自分の所持金が万が一負けたとしてもギリギリ足りることを確認してから少女に顔を向けた。

「困ったお嬢さんだね。わかったよ。こんなこと滅多に出来る人はいないだろうが、君のわがままにつきあってあげよう。」

「素敵。おじ様って実はとてもすごい人かなにかなのかしら。」

「そのかわりといってはなんなんだがね・・・・・。」

「なあに?」

「実は私には幼くして亡くなった娘がいてね。生きていればちょうど君と同じくらいの年令だ。
もし負けたら君に娘の面影を求めてしまう父親を慰めると思って、一晩私の娘として一緒に過ごしてくれないかな。」
ウソである。自分の住む島にはとっくに30を過ぎた3人の息子がピンピンしている。

「ち、ちなみに私はここの付属ホテルのスイートルームに泊まっていてね。決して怪しい者じゃあない。君が心配することなど何もないよ。」

実はこのカジノにいる噂の高級娼婦を呼びつける為に無理をしてとった部屋だった。
だが、これ程の若さと躰と容姿を備えた少女は高級娼婦にもそうそういないだろう。
既に室料と昨日の負け分でかなりの大金を失っているのだ、
出来ればそこそこ挽回して、勿論夜も美味しい思いがしたいものだ。
こんな美味そうな素晴らしいカモを逃すものか。

「いいわよ。おじ様。」
少女はゆっくりと見せつけるようにスリットが太股まで深く入った足を組みかえた。
・・・・・・・・ゴクッ。
紳士は、スラリとした素足に生唾を飲みながら今夜に期待を馳せる。
煽るような仕草にも関わらず紳士には、少女の顔が自分の嘘に同情した無知な小娘の善意にあふれた微笑みに見えた。



・・・・・・・・ゴクッ。
本来なら使う場所が違ったはずなのに紳士はカラカラに乾いた喉を動かす為に唾を飲み込んだ。
背中と顔をダラダラと流れる汗がとまらない。

「ありがとうvおじ様。じゃあ私の勝ちだから約束通りスィートルームの鍵はもらっていくわね。
とっても楽しかったわ。」
明らかになった勝敗と共に少女は颯爽と去っていった。
後にはガビーンと口を開け、鼻水をたらしカツラが落ちかかっている紳士だけが取り残されていた。



「アドモアゼル。カクテルはいかがですか?」
意気揚々と歩く少女に男は声をかけた。

「あら、サンジ君。ありがと。」
サンジに少女はニンマリと笑ってカクテルを受け取る。
対してサンジは随分難しい顔をしている。

「ナミさん。勝ったからいいようなものの、あんな危なっかしい勝負はダメだよ。」
サンジはナミの素晴らしい体をあからさまに狙う、エセ紳士にナミが自分自身まで賭の対象にしたことを怒っていた。

「失礼ね。120%の勝率があったから乗った勝負よ。
あんなマヌケ紳士にどうこうされるなんて冗談じゃないわ。」

「それでも万が一があるじゃないか。ナミさんを狙うなんて、なんてぇ不届きなヤローだ。」
か弱いナミが襲われる姿を想像してサンジの額にピキピキと血管が浮かぶ。
あんなクソ条件をほざいたクソエセ紳士を蹴ってこようとサンジは踵をかえしたが、襟首を掴まれて制止させられる。

「トラブル起こさないでって言ったでしょ。
それに万が一の時はサンジ君に助けてもらうから大丈夫よ。そうでしょ?」

「アハーン。その通りさ、ナミさ〜んvvv。俺の愛でナミさんを完全ガードだぜぇ!」
ナミの言葉にサンジはコロッと目をハートだらけにする。

「それより・・・・・。たったこれだけの時間で900万ベリー稼いだわ。
ここまでくると貧乏海賊やってるのがバカバカしくなってくるわね。」

「元金抜きの金額が?そりゃスゲエや!ギャンブラーなナミさんもステキだぁ〜vv。」

「そうよ。あんなしょぼい紳士と準備運動がわりに少し勝負しただけなのに。
相場のレベルが半端じゃないのよ。
これで600万ベリーなくても元金には充分だわ。」

「じゃあ買い叩かれた質草を引き取りに行きますか?」

「そうね。」

歩きだそうとするナミにサンジがスッと腕を差し伸べてエスコートをする。
感の良い男だとナミは改めて思う。
サンジが少し側を離れた隙に馴れ馴れしく声をかけてきた紳士をナミこそがカモとして狙っていたのだ。
なんの打ち合わせもしていないのにサンジはナミがカモと勝負している間は決して知り合いとして近寄っては来なかった。
出来る限り相手を油断させ、財布の口を弛めてもらう為にわざわざ少女ぶっていたナミとしてはそれは望み通りだ。
勝負の間、少し離れた所からうるさいくらいに女性をナンパしているサンジの声が聞こえていたのに
ナミに近寄って来なかったということはわかっててやっていたのだろう。
しかも、勝負の内容まで把握されていた。

「ねえ、ナミさん。てっとり早く稼ぐ為でもナミさんがあんな危ないマネするのはダメだよ。
なんだったらオレに稼がせてくれない?オレ結構ギャンブルは強い方だよ?」
サンジがエスコートしながらも言い募る。

「嫌よ。こんな滅多にないカジノであたしがやらなくてどうするのよ。
大体サンジ君はギャンブルが強くても相手が女の人ばかりだったら勝つことが出来るの?
有り金全部巻き上げることが出来る?サンジ君の言うレディ達相手に非情になって1敗もしないことが出来るわけ?」

・・・・・・・・。
サンジが沈黙する。
「・・・・・・ごめんなさい。出来ません。」

「たった1敗が命取りになりかねないわ。
だからここはあたしにまかせて。
老若男女問わず、もちろんカジノ側からも勝利して見せるわ。」
ナミは手をベリーにかたどってニッコリと笑って見せた。

二人はゲートに向かって足を進める。
オレンジの髪に青い光沢のある膝下丈のチャイナドレスが似合う少女と
ハニーブロンドに黒のタキシードを着こなす青年が連れ立って歩く姿は大勢の人の中でも一際目立っていた。
紳士面をした男達は深いスリットから零れる少女の素足にさりげなく目を留め、
淑女達は少女を見つめる麗しいとさえ言える青年を羨ましげな視線で振り返った。

ナミはサンジ君のエスコート姿は鼻を膨らませてヤニ下がらなければ確かに格好良いと思う。
こうしてただ一緒に歩いているだけで周囲の着飾った人々から注目されているのがわかる。
体の線を露わにする青いドレスを身に纏った自分も充分人目を引きつける自覚はあるが
サンジ君に見惚れ、自分に敵意を向けてくる視線もビシバシ感じる。
いつもはなんとも思わないのに、こんな場所で自分だけを心配そうに見つめられるのは少しくすぐったいわね。
ナミはサンジの言葉を聞きながらクスリと笑みを零した。

「じゃあ。約束して。オレも側を離れないようにするけど
少しでも危ないと感じたら絶対に呼んでくれよ。」

「もちろんよ。万が一負けた時はサンジ君やゾロに代わりに体で払ってもらうわ。
頼りにしてるわ。サ・ン・ジ・君v」

「そんなしたたかなナミさんもステキだ〜vv」
あまりな言葉を言われたにもかかわらず、サンジはハートを乱舞した。

2人は大広間を出た広大な廊下の片隅にある質屋の受付へ向かう。

「113273番よ。満額600万ベリーを返金するわ。
ウチの賞金首を返してもらえるかしら。」

受付の男がスッと一礼し、手元の機械を操作をした。
受付の後ろの頑丈そうな扉がガーッと横滑りして奥にある部屋が姿を現す。

「113273番。お疲れ様でした。」

「マリモちゃぁん。お迎えに来ましたよ−。寂しくて泣いたりしませんでちたか〜。」

サンジが受付の男越しに呼びかけると、屈強な男がのっそりと出てきた。

「ゾロ。ありがとね。おかげでスタートは上々よ。」
                      
「クククッ。昼寝はしなかったみてーだな。実は心細かったりしたんじゃねえ?
オレらが迎えに来なかったら即、海軍か闇市場行きだからな。」

「・・・・・・テメエら。」
ゾロは説明さえせずにここに放り込んだ2人に額の血管をビキビキと増やした。

ここは裏カジノである。
ここでは立場も身分も全く関係がない。
裏の名の通り、命さえコインに換金される世界だ。


GM号は財政難に困り果てながらこの島についた。
襲ってきた海賊を返り討ちにして一時的に財政が潤っても
船長の底なし胃袋をずっとまかないつづけるような金額にはなりえない。
ナミが鬼のごとくクルーへのお金を切りつめても、サンジが必死で食費を抑えようと努力しても船長の胃袋は憎たらしいほどゴムだった。
GM号の財政は、この島で買いだしを済ませたらほぼ金が尽きたも同然の状態だった。(ナミのヘソクリは計算に含まれない)

幸いこの島はカジノが売りで、港から続く街は一大テーマパークのようになっている。
大人専用のカジノから子供に対応した射撃のような出店やゲームセンター、更には大きな遊園地まで備えていた。
島も一見海軍に協力しながら裏では金をドンドン落としてくれる海賊をジャンジャン受け入れていた。
もちろんカジノで貧乏海賊を一発逆転しようと考えていたナミだったが、
ロビンによると島のかなり奥まった所に信じられないようなレートの高い裏カジノがあるらしい。
日帰りでは行けない場所にある裏カジノへ、始めはロビンの案内で船番を残して全員で行こうと計画していた。

その時、

「なあ。あそこに見える遊園地ってどんな所なんだ?」
チョッパーはこの島に来たことがあるらしいロビンに素朴な疑問を聞いてみただけだった。

「子供達が施設を使って遊ぶ場所・・・といえばいいのかしら。」

「へええ。ここから見えるあのクルクル回ってるデッカイやつもその施設なのか?
子供はあの中で何をして遊んでるんだ?」

「・・・ごめんなさい。私も知識としてしか知らないから船医さんに遊園地がどんな場所か上手く説明出来ないわ。」
そして、申し訳なさそうなロビンのその言葉で予定は変更になった。


「よし!遊園地に行くぞ!」

「おいコラ。待てルフィ!行くのに文句はねえが、今は先立つものが全くねえんだよ!」

「いやいやいやサンジ!ここは遊園地スペシャリストのウソップ様にまかせとけ。
チョッパーとロビンの他に遊園地に行ったことがない奴は手を挙げろ!オレ様がどーんと面倒みてやるぜ!」

「う、うわぁああ。オレ、遊園地に行けるのか!?」

「だから待ちやがれ、クソ野郎共!どうせならロビンちゃんにスペシャルな遊園地初体験をさせてやりてえじゃねえか!
いやだから、まずは軍資金っつーか、ね、ねえ、ナミさん?」

サンジの最期の一言に男達はハッと我にかえり、沈黙する航海士を恐る恐る振り返った。
ナミはスッと立ち上がり、ラウンジを出たかと思うとまたすぐに戻ってきた。
困窮状態の財政を忘れ盛り上がりかけたクルー達はナミの様子をビクビクと見守る。

「ロビン。まず確認するけど裏カジノの話は確かよね。」

「ええ、本当よ。」

「・・・・・わかったわ。」
ナミがテーブルの上にダン!とお金の入った袋を置き、厳かに言った。

「ロビン、チョッパー、ウソップ!!
今回、特別に私のヘソクリから4人分のお金を渡すわ。
もちろん、遊園地代も含めたお金よ。
それで明後日の出航まで好きに遊んでくればいいわ。」

船内にどよめきが起こった。
普段の航海士からは信じられない言葉にゾロでさえ目を見開いた。

「え、ええええええっ!!」
目を飛び出させて驚くチョッパー。

「ナ、ナミ!!お前また熱でもあんのか?!大丈夫かよ、おい!」
というウソップを無視してナミは続ける。

「ただし!これはミッションよ!!
私のヘソクリから出したお金なんだからこれは当然貸しになるわよね。
でもルフィを連れて4人で遊園地へ行って、ちゃんと海軍が出てくるようなトラブルなしで帰ってきたらこの貸しはチャラにしてあげるわ。
私には裏カジノで今のお金を何億倍にするという大事な用事があるの!!
もしそれを邪魔するような事になったら・・・・・。
ルフィ、ウソップ、チョッパー、ロビン、あんた達に貸した私のヘソクリは1000000倍にして返してもらうわよ。
この島の裏カジノにはそれだけの価値があるとみたわ!」

ロビン、チョッパー、ウソップの顔には汗が流れ、船長は

「よおし!遊園地だー!!」
と元気に叫んでいた。
こうして航海士は最大のトラブルメーカーを滅多にないとふんだ裏カジノから排除した。





そして今、辺鄙な山の上のカジノにナミはサンジ、ゾロと3人で来ていた。
ナミのお供に立候補&任命されたサンジには昨日のうちに買い出しを済ませてもらっている。
だが、てっきり船番だと皆が思いこんでいたゾロを
わざわざGM号を見つかりにくい入り江に停泊して無人にしてまで
ナミは首ねっこを(サンジに)ひっつかんで(させて)連れてきていた。

ここは裏カジノである。
ここでは立場も身分も全く関係がない。
裏の名の通り、命さえコインに換金される世界だ。
そのカジノ付随の質屋へ
ナミは6000万ベリーの賞金首を放り込んで、てっとりばやく元金を作ったのだった。

「ハッハッハッ。まあしかし、ただの穀潰し剣士が珍しくナミさんの役にたったじゃねえか。」

「ああ?何が役だ、ふざけんな。」

「確かにふざけてたわよね。ゾロの値段がたった600万べりーだなんて。
失礼しちゃうわ。10分の1だなんていっそ海軍に売り飛ばした方がマシじゃない。」

「そっちかよ!」

質草にされたゾロは番号をつけられカジノ預かりとなった。
ただナミの思惑が外れたのは肝心のゾロの値段だった。
このカジノは外の世界の評価を受けつけない。
文字通り、立場も評価も無関係になるのだ。
それはどんな人間でも受け入れることに繋がる。
どこかの王族からお忍びの海軍幹部、高額賞金首の犯罪者、はては乞食でさえここではドレスチェックもなく受け入れられる。
どんな人間でも勝てば常識では考えられないような大金を得る可能性がある。
ただどんな人間でも支払うものを用意できなければ闇へ連れ去られるだけなのだ。
そしてカジノ付随の質屋にも外の世界とは隔絶した独自の基準があり
そこで6000万ベリーの賞金首であるゾロは600万ベリーという値段をつけられたのだった。
ここで大金を手にするのはギャンブルに勝利した者だけだといわんばかりに。
わけもわからず連れてこられたゾロは、
いきなり質屋に売り飛ばされたあげく、ゾロの値段に憤慨したナミに
「チャッチャッと稼いで引き取りにきてあげるから昼寝でもしてまってなさい!」
とまるで幼児を扱うように言われ、あまりの理不尽に怒りをフツフツと溜めることしか出来なかった。
そしてナミは宣言通り驚く程の短時間で金を増やし、大事な仲間の(外では10倍の値が張る)質草ゾロを取り戻したのである。


「ったく、なにが質草だ。ふざけやがって。」

「ばあか。ウチは今、路頭に迷いそうなほど財政困難なんだぞ。
寝腐れ剣士をちょっくら貸し出すだけで金が作れるなら万々歳じゃねえか。
相変わらずなんにも聞いてないんでちゅね〜マリモちゃんは。」

「その言葉遣い止めやがれ!たたっ斬るぞ!
んだ。裏カジノっつーのは100ベリーとか小銭じゃ賭けることも出来ねえのかよ。
キンキラした服といいお高くとまってんだな。」

「んだとコラ!キラキラした服の何が悪いっ!
レディ達がスケスケやドカンと露出したドレスで蝶のように軽やかに舞っているんだぞ!!!
この場所にハラマキ姿を晒してる自分を恥じ入るくらいの気持ちをもちやがれ!!
このインポ剣士!」

「誰がインポだ!フカシこいてんじゃねえぞ!この早漏コック!」

「てめっ!見たこともねえくせに自分のインポ隠しにオレ様に濡れ衣かけんじゃねえよ!」

「誰がだ!」

「「ブッ殺す!!!」」

「やめんか!」
ナミはあまりといえばあまりにも下品&低レベルなケンカに鉄拳制裁を加えた。

「まったく。トラブル起こすなって言ってるのになにバカやってんのよ。
それとゾロ、ここはドレスチェックもないし100ベリーからでも賭けられるわよ。」
ただいつの間にか築かれたステータスによって一般レベルとはかけ離れた富裕層ばかりが集ってくる。

「ふん。・・・・・っておい。100ベリーさえ出ねえほど、貧乏海賊だったのかよ。」
ナミの言葉に100ベリー以下の財布しか持ってないから自分を質にいれたのだと考え、
たいして気にしてなかった麦わら海賊の逼迫ぶりに驚いた。

「バカね。そんなわけないでしょ。
ただ100万ベリーにもならない有り金と600万ベリーのスタート金額で当然後者を選んだだけよ。
エサが上等な方がいいカモが寄ってくるんだから。」

「だよね〜ナミさん。今日のドレスとっても似合ってるよ。」

「さて、じゃあもう一稼ぎしに行きますか。ここからが本番よ。
ルフィがどんなにゴムでも痛くも痒くもないくらい稼いでやるんだから!」

「は〜い、ナミさん。お供しま〜すvv。」

「じゃあゾロ、くれぐれもトラブルだけは起こすんじゃないわよ。
私の邪魔したら借金倍増どころじゃ済ませないからね。
自分のお金でギャンブルするのは勝手だけど、ここで持ち金以上の負けをだしたら命で支払うしかないのを忘れちゃだめよ。
まあ、あんたは特技を生かして昼寝でもして待ってるのが一番よ。」

「じゃーな、マリモ。どうしても元の場所に戻れなくなった時はちゃんと迷子放送してもらうんだぞ。
しょうがねえから、帰る時に引き取りに来てやっからな。」

憮然としたゾロを残して二人は颯爽と大広間へ戻っていった。

二人が吸い込まれていった賭博場への入り口は分厚い天井まである扉が立ちふさがっている。
それが人が扉の前に立つ度にスーと自動で開き、また自動で閉じるのを繰り返している。
開く度に見える中の賭博場は大勢の人間がひしめいていて、ナミはドレスチェックはないと言っていたが
やっぱりキンキラした女や、クソコックのスーツをもっとゴテゴテさせた服を着た男共がワンサカいてうんざりする。
わざわざ人であふれた場所に行くのも面倒だが、かといって言われた通りに昼寝をするのも業腹なので
ゾロは来る途中屋敷の手前に見た森林で鍛錬でもしようと踵を返した。



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