「お、なんだ。やっぱり初めの道で良かったんじゃねえか。」
正確には始めに迷った時とは反対の屋敷の側面を通ったのだが、ゾロはまたしても迷子になっていた。
そもそも先程は屋敷の外に出る事が目的だったし、今回はカジノの広間を目指していたのだが
ゾロにとっては頓着する程のことではなかったらしい。
そしてゾロは崖っぷちである建物の周囲をぐるりと回って大広間から開け放たれている庭に出た。
既に日は沈みきってしまい、空に赤みはない。
庭はライトアップされているが人影はなく、大広間の中だけが沢山の人と光で熱気を発している。
くああああ。
別にナミ達を探す必要もないだろう。
ゾロは大きく伸びをして手入れされた庭で遅い昼寝をすることにした。
そして、ゾロは夢を見た。
夢の中でゾロは仲間達に誕生日を祝われていた。
それは以前実際に行われたことだった。
お祭り好きなクルーにとっては仲間の誕生日は格好の口実だ。
ゾロにとってもいつもより酒が沢山飲める船上パーティーは大歓迎だ。
皆が誕生祝の言葉で乾杯した後はいつも通りの飲めや踊れのパーティーに突入する。
ただそれだけのことだった。
それでもゾロの好物ばかりが揃えられた誕生日の御馳走。
皆に笑顔で投げかけられる祝いの言葉。
そしてあの夜と同じように夢の中でもパーティーが終わった後サンジがゾロに近づいて小言を言う。
酔ってポヤポヤした顔で「嬉しそうにしろ。」と言ってくる。
「テメエに出会えて嬉しいって皆が言ってるんだよ。バァカ。」
「はあ?テメエもか?」
「・・・・そうだな。オレもだ。」
そのくすぐったそうな微笑みが夜なのにまぶしくて、何故かひどく座りの悪い違和感を感じた。
唐突に甲高いメスームの声が響き渡った。
『沢山の死んじゃう命や犠牲が自分1人が生きてるだけで増えるんだよ!』
そんなことは野望への道を進む俺には聞くほどのものでもない。
俺の後ろにつながる辿ってきた道が血塗れなのも、鷹の目へつながる道にはさらなる血が必要なのもわかりきっている。
それが自らのものだろうと他者の血だろうと、血にまみれるどころか血の池に頭までつかることさえ厭わない。
血塗れの道も身体も己の一部だ。
誰が決めるのかわからない善悪などが俺の誓いにたちふさがることはない。
そうか。
夢の中のゾロは冴え渡るように理解した。
あの微笑んだサンジに感じた違和感は。
あのメスームの小難しい言葉が身に覚えのあるものだったのは。
エラク熱くて嬉しくて。俺には不釣り合いだと感じたからだ。
ドスッ。
「グエッ。」
「まったく、日は沈んじまったからもう光合成は出来ねえぞ。」
「もうちょっとマシな起こしかたが出来ねえのか、テメエは。」
ゾロはサンジに鳩尾を蹴り込まれ、無理矢理覚醒させられた。
夢をみていたような気もするが、いつものようにスカッと憶えていない。
ただ寝汗だか夜露だかが身体にまとわりついて少し不快だった。
「オラ。デリバリーだ。ちょっとは人間様らしく食い物から栄養とりやがれ。」
両手に持った大きな銀の盆をサンジはゾロの側に置いた。
色とりどりの食べ物をのせた盆とサンジを見てゾロはなぜか違和感をおぼえる。
それは忘れたはずの夢で感じたものと似ている気がして。
サンジが反応のないゾロを訝しむと、ゾロはいきなり両手で両頬を叩いた。
パンッ!
かなり小気味いい音を鳴らせる。
「な、なんだ?光合成の方が美味しいのかよ?」
「いや、ちっと寝ぼけた。いただきます。」
ゾロはパチンと手をあわせて料理をガツガツと食べ始める。
「てめえは喰わねえのか。」
「アホ。オレはナミさんがコーディネイトしてくれたタキシードを着てるんだよ。
こんな格好で地べたに座って喰えるか。」
「めんどくせえな。」
「まあ、お前には理解出来ねえ話だな。」
そう言いながらもサンジは立ち去るでもなくナミがいかにカジノで大勝したか、
逆恨みをしたバカに狙われたナミを自分がどんな風に颯爽と現れて守ったかなど、今までの経緯をおおげさな身振りでゾロに話してくる。
まだ湯気を残す料理はサンジの料理ではなかったが、サンジの料理のようにどこかが暖かくなった。
そんな2人を換金を終えたナミが見つけた。
貧乏航海に悩まされ続けたナミにとって、ここまで嬉しいのは本当に久しぶりだった。
さすが裏カジノと名を馳せるだけのことはある。
ギャンブルで勝利さえ手にすることが出来るなら、金額もアフターサービスも申し分がないのだ。
持ち歩いたら人目を引かずにはおれないだろう程の得た大金は
港町の銀行で出航直前に受け取る手配さえ済ませて抜かりはない。
時刻はあと半時もすれば日付がかわる時間を指している。
どうせならエセ紳士からまきあげたスイートルームで贅沢な一泊をしてやろうとカジノを切り上げたのだ。
そしてギャンブルをしている間はつかず離れずを繰り返しながらずっとナミを守ってくれていたサンジが
VIPルーム(換金場所)から出てくるといなかったので探していた所だった。
あらあら。いつもは寄ればケンカの癖にずいぶんと楽しそうね。
庭の片隅に姿を見つけた2人は遠目にもガンのくれあいなどではなく、楽しそうに話しているのが見てとれた。
サンジはこの大広間の人にもひけをとらないタキシード姿だが、ゾロはいつものハラマキ姿のままだ。
ナミとサンジはここに来る前に港町でレンタルでわざわざ服を借りてきていた。
ドレスチェックはないと言っても、明日にも困るような貧乏ぶりだったとしても、いやそれだからこそ。
より大物のカモを捕まえる為に、その判断は正しかったとナミは自負している。
この気位と見栄が異様に高い大物ぶった人間ばかりが集まる場所は
ナミから見ればカモがネギしょってスープの入った鍋の前でちょこんと待っているようなものだった。
必要経費をヘソクリから出費するという信じられないことをしたが、それだけの価値と成果があったのだ。
どうせならゾロもタキシードを着てくれれば自分達が更に映えるだろうとは思ったが、
賞金首として質草として高値をつけてもらうのが一番の役目のゾロは普段着の必要があった。
今この広間の人間が2人に目を留めても、きっとサンジに見惚れることはあってもゾロにそうすることはないだろう。
光が溢れるカジノで長時間を過ごしたナミの目にもハラマキ姿というゾロのヘンテコな姿は少しみすぼらしく見えた。
だが今は、サンジの方こそがゾロの側にいたがっているのかもしれない。
ナミの目には無邪気に笑うサンジがふとそんな風に映った。
ナミもサンジもこの作り物のきらびやかな世界で堂々と艶やかに振る舞うことなど簡単に出来る。
注目される立ち居振る舞いも相手の裏を読んで動くことさえ。
けれどまやかしの世界は危ういものだ。
いつでも簡単に脱げると思いながら纏っていたはずの殻がいつのまにか自分を覆いつくして乗っ取ろうとする。
殻だけが自分の名を名乗って一人歩きを始め、あったはずの自分の中身が知らぬ間に空洞になってしまうことさえあるだろう。
そしてそんな心配どころか可能性さえないのがゾロやあの麦わらの船長なのだ。
きっとこんな世界で一働きした後のゾロの側はとても居心地がいいだろう。
自分の居場所はここじゃないと、帰りたい場所は自分の笑顔はもっと違うものだと側にいるだけで体が思い出す。
あの太陽の匂いのする少年の隣りなら。
あーあ。かなり稼いだことだし明日は朝一で帰ろうかしら。
たった一泊でホームシックもないものだと思いながらもナミはそう予定を変更した。
「え?ナミさん部屋まで送るよ。
というかここはゾロの部屋で、スウィートルームはオレ達のだったりなんかしたりして〜vvv」
「あはははは。なわけないでしょ。ホラ、2人共早く入って。
あ、サンジ君ハイコレ、小さい荷物だけどよろしくね。」
カジノのある屋敷の別棟、カジノ付属のホテルの部屋の前でナミは自ら扉を開けてあげた。
この部屋はナミが泊まる予定の部屋ほどではないが、かなり上等なクラスになるだろう。
そんな部屋がゾロとサンジが戻ってくる間、たった100ベリーで始めたゲームの景品として当たったのだ。
しかもこの景品を狙って100ベリーを投じ続けていたらしい紳士達の前でナミが1発で手に入れたのである。
ナミの上機嫌はとどまることをしらなかった。
ったく。たかがあぶく銭や宿の一つや二つでよくそこまで喜べるな。
と、ゾロは思ったがさすがにベリー絡みの文句など口に出して言うことは出来ない。
「もちろんお安い御用です。小首を傾げるナミさんもステキだ〜vvv」
「あ、後この部屋は一度入って閉めたら12時間は絶対に開かない作りになってるから、ムリヤリ壊したりしないでよ。
じゃあねサンジ君、ゾロ、明日は私一足先に帰ってるからサンジ君はお昼過ぎまでゆっくりしてから帰ってきなさいねv」
「へっ?ナミさんちょっっ」
バタン。ピッピッピッピッカチャカチャカチャガチャン。
サンジが呼び止める間もなく扉はしまり、異様な機械音がして扉が厳重にロックされた事が伝わった。
「なんだそりゃ。」
そんな話はまったく聞いてなかったゾロが思わず呟く。
同じ様子のサンジは無言でドアに近づき、ノブを回したり押したり引いたりしていたがドアが開く様子はない。
一通りドアと格闘したあと、サンジはその場にズルズルとへたりこんだ。
「そ、そんな。ナミさん。大人の時間はこれからなのに。
ナタリーちゃんもジョセフィーナちゃんもカルーラちゃんにも意味深なお誘いをもらっているのに〜。」
そう、今日のサンジはモテにモテていたのだ。
ボディガードを買って出た通り、今日は至る所でビッグギャンブルを成立させるナミさんを守る為に神経を集中させていて、
いつも港でするようにはナンパに集中することができなかった。
それなのに何故か今日はナンパの成功率がかなり高く、あまつさえレディ達の方からお声がかかることさえあった。
サンジは実はナミを部屋に送った後で、お誘いを裏切ることなくレディ達の元へ行く気マンマンだったのだ。
そんなめくるめく予定がいきなりドアひとつによって絶たれてしまった。
「へっ。残念だったな。クソコック。」
嫌味ったらしく言うゾロが実に嬉しそうだ。
必死なサンジはそんな態度さえ無視してゾロに頼んだ。
「ゾロッ!てめえは鉄さえ斬れるんだろーが。
いっちょこのドアをバッサリやってくれ。」
「へえ。ナミのお願いを無視してドアを壊すのかよ。」
「ウッ。そ、それは・・・・・・・・・・・ナミさ〜ん。」
うずくまるサンジを残してゾロは中玄関の扉を開けて部屋に入っていった。
部屋は町の宿ではお目にかかれない程の広さと豪華さを兼ね備えたものだった。
部屋の中程には天蓋付きのキングサイズのダブルベットがデンと置かれている。
テーブルやイス、ソファ、カウンターバーなどこの部屋だけでも色々なものが揃っている。
「おっ。」
ゾロは案の定バーに備え付けられた棚に陳列する酒の数々に目を奪われた。
嬉しそうにいそいそと酒を物色していると
「おおっ!すげえ。オーブンまであるじゃねえか。こんだけありゃ今からでも自炊が可能だぜ。
ご立派なキッチンじゃねえか。」
いつの間にか部屋に入ってきたサンジがつながっている台所を覗いて感激していた。
チョロチョロと次は風呂場を覗いて声をあげている。
相変わらず立ち直りが早い。
サンジは一通り部屋をチェックして回ると早速酒を飲み始めているゾロの所に戻ってきた。
「なんだかなあ。レディと過ごすにはバッチリの部屋にはマリモがいるし、
レディが待っている外には出られねえしでとことん不毛だな。」
サンジはダブルベットにゲンナリと肩を落としながら1本のワインをテーブルに置いた。
それは先程ナミから受け取っていたものだった。
「オイ。その酒はなんだ?」
「ああ、これはこの部屋とセツトで景品になっていたヤツだ。
一応酒らしいが、飲んだら前後6時間を忘れるオマケ付きのワインだぜ。」
ニヤリと嗤いながら言うその話に、景品の下世話な狙いが透けて見えてゾロは眉をひそめた。
「フン。それと半日外に出れない部屋か。アホらしいな。」
「まったくだぜ。レディとのめくるめく一時をカケラでも忘れるなんて冗談じゃねえ!
レディにだって忘れられない思い出すだけで熱くなっちまうような思い出にしてこその男じゃねえか。
『サンジさんと過ごしたあの日が忘れられないのv』なんて言われちゃったらもう〜〜〜〜vvv」
一人でクネクネとしているサンジは脳内でアホな小話を展開させているらしい。
ゾロはそんなサンジをスルーして2本目の酒の封を開けた。
「と、そろそろ湯がたまるかな。おいゾロ。
オレは先に風呂もらうぜ。てめえと2人じゃ使い道のねえ部屋だがせっかくの陸のタダ宿だ。
湯が使い放題の贅沢風呂ぐらい満喫しなきゃ損だからな。」
「おう勝手にしろ。ん?
いつもは宿についてる酒は飲むなってうるせえお前が何も言わねえのはこれがタダだからか。」
「今頃気づいたか。喜べ。
この棚の酒は全部飲みきってもかまわねえんだからな。」
そう言いながらサンジは風呂の湯を止めにいった。
だが結局風呂に入る前にツマミを作っていき、
「酒だけ飲み続けるんじゃねえ。ちゃんとツマミも喰え。」
と、相変わらずの小言を残していったのだった。
ゾロはいたくご満悦だ。
部屋が豪華なのはどうでもいいが、ここは酒も豪華だった。
珍しい酒や高価な酒、ゾロ好みのキツイ酒がずらりと揃っている。
ちょうど5本目の酒を空けて6本目の酒をカウンターバーから取り出した時だった。
無造作に置いた空瓶がバーの上にあったリモコンにぶつかりそれを落としたのだ。
「ん?」
気にもとめなかったゾロだが、その後ゥィィィィィとかすかに鳴る機械音に気づく。
不審な音に酒を飲みながらも片手を刀に置き、ゾロは周囲の気配を探る。
機械音もすぐに止み特に異変もなさそうだ。
金のかかった部屋は防音にも優れているのかサンジがいるはずの風呂の方からもシャワーの音ひとつ聞こえてこない。
何事もないと判断したゾロはまた悠々と酒を味わいふと、何気なく後ろを振り返った。
ゴホッ。
目に入った光景に口に含んだ酒を危うく吹きそうになる。
そこには、正確には風呂に隣接しているはずの壁には、シャワーを浴びるサンジの影絵がくっきりと映し出されていた。
いわゆるスモーク状態と言えばいいのか。
風呂場の光によってシャワーやサンジの腰の細さが影となって浮かび上がっている。
「ア、アホかあ!」
しばしサンジの躰の線を舐めるように見てしまった後、ハッとしてゾロは叫んだ。
こんな状態がバレたりしたらサンジにどれ程バカにされるかわかったものではない。
ゾロはカウンター下に落ちたリモコンのズラリと並んだ小さなボタンをポチポチと押しまくった。
ベッドの天蓋についてるランプがついたり部屋が暗くなったり明るくなったりを繰り返すが肝心の壁が一向に元に戻らない。
サンジは髪を洗い終わり、ブラシで躰を洗い始めようとしている。
ゾロは顔を逸らせばいいだけだとは考えず、そしてリモコンをポチポチ押しながらついサンジの影を魅入ってしまう。
影のせいで想像が掻き立てられてしまうのか股間もホンワカと熱くなってしまいそうである。
焦れたゾロは酒瓶を片手に持ち、壁のすぐ前でリモコンを壁につきつけてボタンを押した。
「チッ!さっさと元に戻りやがれ!」
ゥィィィィィィ。ようやっと再びかすかな機械音が鳴る。
ガボーン。
ゾロが固まった。
壁はガラスのように透過し、サンジの裸体のすべてが現れた。
だが、サンジは気づいた様子もなく身体を洗い始めている。
ゾロは何のボタンを押したのか、壁はマジックミラーに変化していた。
湯が使い放題だなんて船乗りにとってこれ以上の贅沢はないだろう。
サンジは一人占めの大きな風呂にいたくご満悦だった。
風呂は足が伸ばせるどころか泳げそうな程の広さである。
風呂の中に頭まで浸かってしまうのはマナー違反だと以前アラバスタの風呂でゾロに教わったものだが、
この風呂を使うのはゾロと自分の2人だけなので構わずにやってしまった。
ほかにも2人しか使わないのにこんな大きな風呂に湯をいっぱいに張るなど
自分的にはかなりハメをはずしてしまっている気がする。
はあ〜。これで風呂の後にレディの元へ行けりゃあ完璧なんだけどよ。
サンジは身体をブラシで洗いながらトホホな溜息をついた。
もちろん今回の目的は船の財政回復で自分の役目はそのナミのボディガードだとわかってはいるのだが。
この島までの航海後、まだナンパもレディとの一時もまともに過ごしてはいなかった。
カジノの最中はナミさんの対戦相手がどんな奴なのか探ったり、
どんどん大勝していくナミさんを狙う輩に注意を払ったりがメインだったのは当然だとしても、
何故そんな時に限って日頃のナンパでもお目にかかれない程レディ達が積極的なのか!
豊満な胸を揺らせるレディの方から手を握ってくれたというのに、
それを自らソッと離さなければならなかった時はどれほど心で泣いたことか!!!
思い出す度に期待だけさせておあずけ状態の息子がムズムズしてくる。
そりゃそうだよな。結局またけっこう溜めこんじまってたもんな。すまねえマイ・ソン。
もう既にブラシでスミズミまで洗い終わったというのに機械的にブラシを動かしながら
サンジは風呂の扉をチラチラと見る。
奴が入ってくるなんざ、万に一つもねえ。大丈夫だ。
オレが風呂に入ってるのは知ってるし、マリモがズラリと並んだタダ酒から離れるわけがねえ。
カランとブラシを置きイスに座ったサンジは、泡だらけの両手でそっとムスコを握る。
「んっ。」
泡でヌルついた手が気持ち良い。
サンジはどうせ自慰をするなら風呂のついでに泡だらけの手でするのが大好きだった。
ちゃんと出航までには可憐なレディと恋が芽生えるようガンバるからよ。
せっかくの陸だが辛抱してくれよな、マイ・ソン。
勝率の悪い約束をマイ・ソンとしながらサンジはヌルヌルの手でシゴいていく。
「ちょっと待てーーー!!!」
サンジが大丈夫だと確信した男はマジックミラーの前ですっかり観客と化していた。
ゾロは固まった後、魅入られたまましばらく微動だに出来なかった。
目の前にはサンジの裸体がガラスのような壁一枚隔てたところにある。
ゾロが目の前に立っているというのに何故サンジは平然と気づかないでいられるのか。
そんな疑問もどうでもよくなる程ゾロは魅入られていた。
マッシロかよ。
白いどころかピンクの場所さえある。
確かに鍛えてるしモノもついてるが、これで男の身体を名乗るのは問題があるんじゃないのか。
ゴクッ。
こみあげる唾を飲み込むと同時にハッとし、ゾロは向こうへ聞こえるようにドスンとその場に座りこんだ。
マジックミラー越しにそれは不可能で、もちろんサンジは気づかない。
身体はサンジの方を向いているが、顔を思いっきり背けてゴクゴクと酒を飲む。
自分が望んだ状況じゃないと表現したつもりなのか。
だが一気に酒瓶を空けてまたチラと前を向く。
ブッ!
酒を含んでいたら間違いなく吹き出しただろう。
立って身体を洗っていたサンジがいつの間にか座り込み股をパカリと開いてオナニーを始めようとしていた。
ゾロの真正面で距離にすれば2mもない。
たまらずに先程の言葉を叫んだゾロだった。
だが叫びはサンジに届かずにゾロは魅入るのを止められない。
信じられない程ピンクだと思った性器は色を増してハッキリと勃起し、
それを全身泡だらけにしたままのサンジが上気しながらシゴいている。
ずいぶんとヤワヤワとソフトなしごき方に見えるがサンジには充分らしく
亀頭とクリクリと撫でただけでビクビクと肩まで揺らせている。
目を瞑ったまましきりに口を湿らす舌がチロチロと異様に赤く見える。
何を想像して頬を上気させて瞼をピクピクと震わせているのか。
こんな顔でいつもしているのか。
こんな想像さえ出来なかった、みたこともない顔をどこかの女には散々見せたというのか。
ゾロは睨みつけるような目でサンジを見ながら、握り締めた手をゴンと床に叩きつけた。
その振動でいつの間にか手を離れていた空瓶が転がり、リモコンに乗り上げる。
サンジの忙しなく動く手のスピードが上がってきている。
ゥィィィィィィ。
覚えのあるかすかな機械音が静かに鳴った。
だがガラスのような壁には何も変化はない。
かまわずにギラつく目で見続けるゾロの前でサンジが薄目をあける。
何故だかサンジの目が見開かれ、もうイく直前に見えたのに手がピタリと止まった。
ピュッ。ほんの少しだけ白濁が飛び出たのが見えた。
壁がガラス状態に変化し、ゾロとサンジは向き合ったかたちでハッキリと目を合わせていた。
「死ねえええええええ!!!」
身体から首、顔と赤くない所はない身体でサンジが飛び蹴りをかけてくる。
身体はまだ濡れており、大きめとはいえバスタオル一枚を腰に巻いただけの状態だ。
「バッ!バカ野郎!飛ぶんじゃねえよ、見えたらどうすんだ!」
「うるせえ、うるせえ!変質者がヌケヌケと言うんじゃねえ!」
「誰が変質者だ、コラ。」
「てめえのことだ!この痴漢!覗き魔!
ヤローの身体を覗くたあマニアックな趣味しやがって!」
「ふざけんな。そんな趣味あるか、ボケ。
たまたま落ちたリモコンでそうなったって説明したじゃねえか。」
「たまたまであんな目の前で眺めてたっつーのかよ!!
テメエ一体どこから見てやがったんだ!」
リモコン操作で風呂場の壁が普通の壁、スモーク、マジックミラー、ガラスの4段階に変化するのは先程確認した。
つくづく悪趣味な部屋だ。
「・・・・・・お前が髪流してたとこくらいからか。」
「〜〜〜〜〜〜ッッ!やっぱ死ね!」
「だから飛ぶんじゃねえよ!」
「ふざけんじゃねえ、変態野郎!だいたい壁が変化したからって見る必要がどこにあるんだ!
ヤローの風呂なんか背ぇ向けて無視して酒に溺れてりゃいいじゃねえか!」
「ガタガタうるせえな。てめえもマス掻き見られたぐらいでガミガミいうなよ。
それとも何か。イく直前で中断されたのを怒ってるのかよ。」
あろうことか段々開き直ってくるゾロがとてつもなく憎たらしい。
「ア、アホかあ!」
「そりゃあ悪かったな、中断させて。
風呂場で泡だらけじゃねえとコけねえってんなら遠慮なくもう一度入ってこいよ。
今度はリモコンに触らねえからよ。」
「ッッッッ!」
ワナワナと震えたサンジはだがいきなりゾロに迫ったかと思うと足払いをかけた。
仰向けに転んだゾロに少し遅れてサンジがのしかかってくる。
「なっ!?」
ゾロはバスタオル一枚のサンジの腰が腹の上に乗ったのに焦り、サンジが手にした瓶には気づくのが遅れた。
キュポン。
口で封を開けたサンジが反対の手でガンとゾロの頭を床に押しつけた。
「反省しない悪い子には罰が必要だぜ。」
宣言と同時に口移しで含んだ酒を飲ませてくる。
顎を掴んで口を固定し数回に渡って酒を飲ませる。
どこが罰なんだ。キスが罰なら逆効果もいい所だぞ、アホコックが。
ゾロは初めてのサンジの口の感触に戸惑い、わけがわからぬまま体勢を入れ替えてしまいそうだ。
だがハッとサンジの意図に気づきサンジを突き飛ばした。
「てめえ、もしか・・・。」
「正〜解。まっ、無駄な記憶は強制削除だな。」
サンジは手に持った景品のワインを振ってみせた。
卑劣なことをされたと感じ、ゾロはグワグワと怒りが込み上げた。
「ふざけんな!勝手に俺の記憶を弄るようなことすんじゃねえよ!」
「それはこっちのセリフだっつーんだよ。
勝手に人のあんな場面見やがって。たかが飲む前の6時間とこれからの6時間忘れるだけだ。
それでオレ様の憂いがなくなるんだから文句言うんじゃねーよ。」
サンジは突き飛ばされて座った状態のまま、聞きわけのないゾロをゴツンと足で小突いた。
「てめえ・・・・・・・・・。」
なにが許せないのかはっきりしないが許せない。
ゾロは腹が立ってやり返してやりたい気持ちで一杯だ。
とっさに閃いたままにゾロは小突いたサンジの片足を掴み、
腹巻きから取り出した「スッポンつむり」を張り付けて床にビタンと押しつけた。
もちろん「スッポンつむり」はメスームから渡されたものである。
反撃される前にと俊敏な動きでもう片方の足も引き寄せて、足を開かせた状態で両足裏を床に縫いつけた。
「へっ!」
「へっ?」
ゾロに遅れてサンジは自分の両足が床に縫いつけられたことを知る。
「なんだこりゃあ!?」
「記憶弄るなんてずいぶんな真似してくれるじゃねえか。
だが、てめえは飲んでねえんだよな。
だったら覗きどころか、とことんこっ恥ずかしい記憶にして憂いをたっぷり残してやる。」
いいながらバサリとサンジの腰に巻かれたバスタオルを剥ぎ取った。
「はああ?!」
わけがわからぬままに全裸状態で無防備なムスコをゾロにむんずと握られる。
「グッ!なんだそりゃっ!ちょ、ちょっと待てゾロ!」
慌ててゾロの手を掴み、押しとどめようとするがゾロの手は乱暴にシゴき始める。
他人の大きなゴツイ手に敏感なムスコを弄られるのに思わず身を竦ませるが、
ひどい中断をされていたムスコはすぐに喜びはじめた。
「おっ。もう反応してやがる。そりゃそうだ、ちゃんとイってねえもんな。」
イくチャンスを今度は逃したくないのか、ムスコはもう生理的な液で濡れはじめている。
「待てっつってんだろが、ゾロ!」
サンジは羞恥と嬲られている怒りで顔を真っ赤にさせて怒鳴る。
両手の爪をゾロの腕にくい込ませて必死に止めようとしているのにゾロの手が動き続ける。
「んだよ、クソコック。
そういやお前、やけにヤワヤワとオナってやがったよな。
こういうのはどうだよ。」
ゾロはまだ記憶に焼き付いているサンジの行為を真似て
亀頭をグリグリと撫で回した後、濡れた先端にニチニチと爪をくい込ませた。
「ヒアッ!」
突然の衝撃にサンジの身体が跳ねた。
「ん?怖えか。」
情けないサンジの声にゾロは満足し優しく聞いた。
サンジは身を竦めて俯き、ゾロの手を挟み込むかたちでギュッと膝頭を閉じた。
だが弄ばれる性器からは更なる先走りが溢れてくる。
ゾロは自分の手に感じるサンジにグワグワと腹が熱くなってくる。
なくなるかも知れない記憶に苛立ちが湧く。
ニチッ、ニチャッ、ニチ、ニチ。
「ッッ、や、やめッつッッッ!」
サンジの言葉に耳を貸さずゾロは裏スジを先走りを塗りつけるように強く撫で回し、
別の手で髪を掴み俯いたサンジの顔をムリヤリ仰向けさせた。
「イく顔見せろよ。」
ゾロは息も荒く、股間はとっくに張りつめている。
「ッッッ、ァ。」
獰猛なギラついたゾロの視線を自覚した途端、腰から甘い痺れが走り抜け射精を堪える気力が一瞬ふわりと浮いてしまった。
白濁はほとばしり始め、もはや抑えることは出来なかった。
クチャ、ニチャッ、グチャッ。
ゾロはブルブル震えながらイく顔を見つめながら、サンジのモノを最期の一滴まで絞り出そうと手を動かした。
サンジは髪を掴まれたまま肩で荒く息を繰り返し余韻に浸り、開かれた口からは舌が見えた。
ゾロは放心状態を抜けだんだんと生気が戻る顔にゾクゾクとした痺れを味わう。
睨みつける目には涙が浮かびフチは赤いのにエネルギーに溢れている。
もっと見たい。もっと触りたい。俺が忘れるならサンジに刻みつければいい。忘れたくない。
「「ツッ!」」
衝動にまかせて自らの唇をサンジのソレにぶつけ、そのまま床に押し倒した。
口からガツッと音がし、痛みが走った。
「ンンッ!」
サンジはありえない事の連続に頭がついていかない。
オレの可愛いマイ・ソンがゴツゴツした手に嬲られてカワイソウだ。
野生化したマリモがハアハア言ってる。
やっぱり筋肉が詰まったマリモの身体は重てえよ。
喰われそうなキスがマリモのくせにクソ気持ちいい。
って、そうじゃねえだろ!!!
ゾロは我に返ったのか激しく抗い始めたサンジに覆い被さりながら体勢をずらし、自分の両手でサンジのソレも縫い止めた。
足を完全に縫い止められて武器を奪われたサンジの抵抗などたいしたものじゃない。
サンジの足の間に片足を滑り込ませ、太股と膝でムスコをグリグリと刺激する。
「ンンウ!」
サンジの足がビクビクと震えたのが伝わったが、声は明らかに怒っている。
貪るゾロから逃れようと顔を逸らそうとする。
ゾロは縫い止めてた両手を頭上にずらし、片手で纏め上げた。
空いた手で顎を掴み逃れるのを許さない。
貪る口腔は暖かく歯茎も歯も嘗め回し、縮こまる舌を引きずり出そうと必死で追いかけた。
キスなど女にねだられた時に返すだけのものだったのに、いつのまにか夢中になっていた。
込み上げてくる衝動は今まで女としたセックスの時とは余りにも違っていた。
もっとと、逃すかと必死だった。
密着しているのでサンジの反応が余すことなくわかる。
刺激し続けていたソコが完全に勃起したのがわかりニヤリとした。
「っ!」
サンジにもゾロがなにを指して笑ったのかがわかり、カアァッと焼け付くような熱が全身にのぼった。
全裸の自分が普段通りの姿をしたゾロに弄られて感じている。
時間が経つにつれ状況を自覚させられる。
抗おうと足を全力で動かそうとしてもそれは床に密着し、ゾロの足に大事な部分を刺激される度にビクつく。
屈辱と羞恥が全身を駆け巡り出口を求めた。
ゾロは顎をつかんでいた手を外し、サンジの躰へ彷徨わせた。
吸い付いてくるような肌触りも脇腹を撫で上げるだけでかすかに震える反応も全てを逃すまいとする。
「ンンゥッ!」
彷徨う手が乳首をグリと押し潰した時、サンジがくぐもった声で反応した。
こんな、こんな所もお前は感じるのか。
堪らず口を離しサンジの顔を見下ろした。
サンジが息を弾ませて自分を見つめてくる。
もっと。もっとだ。
ゾロは乳首を口に含もうと顔を寄せていく。
「ゾロッ!!」
そんなゾロをサンジが呼び止めた。
「止めろ、ゾロ!
こんな、こんな、ふざけんのも程があるだろうが!
オレをこんな風にいたぶって楽しいのかよ!
いますぐ外せ、このクソったれ!
許さねえ、許さねえぞこのクソ野郎!!」
サンジの言葉にゾロはピタと動きを止め、素直に納得した。
許されない。自分にぴったりの言葉だろう。
「そうだな。許されねえな。」
「クソボケ、さっさとッ、ハァンッ!」
カリッ。
おもむろにゾロが尖りきった乳首に歯をたてた。
突然の衝撃にサンジの背がビクンと床から浮く。
サンジは涙の浮かんだ目で信じられないものを見るようにゾロを見た。
「欲しいんだよ。」
獰猛な目で見返しながらゾロが言う。
「許されねえのはわかる。俺じゃ許されねえ。
だが欲しい。
後でどんな報復しても構わねえ。
悪いが俺の知らねえ顔全部見せろ。」
言いながら閃くようにゾロは自覚した。
この男が、サンジが欲しいのだと。
それを許してくれる相手でも許されるような己でもないこともよくわかる。
だがそれでも触れたい衝動が身体の中を駆け巡っている。
こいつに触れられる、こいつと愛しあう女が目の前にいるならば斬り捨ててしまいそうなほどに独占したい。
「なっ?!」
ゾロは自分の細胞に染み込ませようとするようにサンジの肌に手を滑らせた。
サンジは足と縫い止められたまま、罵倒し大事にしている手さえシッチャカメッチャカに動かして抗った。
全身から汗が噴き出し、ゾロの綺麗な背中にさえ爪を食い込ませたのにゾロは躰を暴き続ける。
ビクンビクンとまるで喘ぐような反応をする自分の躰が恨めしい。
「ヤメロ」という言葉になんの力もなく、腰を抱き込まれムスコを銜えられたまま達した時には
次に襲いかかるものに絶望を感じた。
このまま流されるのだけは認められないと最期の力を振り絞る。
ゾロは抗い続け、睨みつけたまま銜えられて達したサンジに興奮が抑えられなかった。
初めて飲んだ男の精液にも嫌悪感一つない。
もっともっとと、身体の中から急かされる何かとともにゾロは先の白濁が流れ落ちた足の間の最奥部分へ指を伸ばした。
ツプ。
色々なもので濡れテカった指が固く閉じた蕾に進入する。
指の先端で蕾の縁をなだめるようにクニクニと動かし、サンジを見た。
「ッ。」
だがサンジは必死に口を噛み締め、両腕を顔の前で交差して顔を隠していた。
「やめろサンジ。顔を隠すんじゃねえ。」
ゾロはサンジの腕を外そうと身体を伸ばした。
するとゾロが外す前にパッ腕が解かれ、むんずと髪を掴まれる。
ゴンッ!
サンジは渾身の力で引き寄せたゾロに頭突きを喰らわせた。
「「ッ〜〜〜。」」
攻撃したサンジもダメージを受ける。
サンジは倒れこんだまま、最期のチャンスとゾロに問いかけた。
「ゾロ。教えやがれ、ロロノア・ゾロ。
テメエは何がしてえんだ。言ってみろ。教えろよ、オレに。
たまたまサカっちまった所にスッパのオレがいたから穴がわりに吐き出してえのか。
それとも嫌がるのをムリヤリ強姦するのが趣味なのか。
てめえの欲しいってのはそういう意味か。教えろ、ロロノア・ゾロ。」
サンジの言葉にゾロは傷つけられたような目をしたが、ここだけはサンジも譲れなかった。
男は吐き出して処理をする必要がある生物だ。
それこそ一度勃起してしまったものは穴さえあれば突っ込んで吐き出したいという気持ちもわからなくはない。
だからこそ確認したかった。
獰猛なギラついた剣士の目に、『欲しい』と言った言葉にバカな妄想をして酔わされてしまう前に。
「俺は・・・・・・・・・・・てめえが欲しい。
他のどんな女も2度と食えねえように骨まで残さず喰っちまいてえ。」
ズクン。
嘘を吐かないと信じられる男のストレートな言葉に甘い痺れが駆け上がる。
クソッ。テメエわざとオレの禁句言ってんじゃねえだろうな!
「・・・・・・・・・・・・。
まず、足を外せ。次に服を脱げ。
全裸のヤローが2人なんてゾッとする程、寒いんじゃねえか?
それでも萎えねえなら・・・・・・・。
喰わせてやるよ、ゾロ。」
ありえない言葉にゾロの目が見開かれた。
「てめえ・・・・・・・・・・・。
意味わかって言ってるんだろうな。」
「アホか。ケツに指まで入れられてどんな誤解が出来るんだよ。
オラ。オレの気が変わらない内に足外したらどうだ。」
外す方法。外す方法!外す方法!!確か!!!
ゾロはスックと立ち上がると台所へ行きガチャガッチャンとしばらく音が鳴っていたが、白い瓶を抱えダッシュで戻ってきた。
そして、白い粗目の粉をパラパラとサンジの足に振りかけた。
すると本当にパカッと足が外れ、足の下には小さなカタツムリがモゾモゾと動いていた。
「・・・・・・。」
「ウシ。」
「こりゃ、もしかして『スッポンつむり』か。」
「オウ。知ってんのか。」
「ハアァ〜。ったくこんなガキのオモチャを禄でもねえことに使いやがって。」
状況も忘れてサンジは一気に脱力した。
正体もわからないものに武器である足を奪われた状態は予想外に恐れを呼び起こしていたらしい。
「うるせえ。後は服を脱げばいいんだな。」
言うとゾロはサンジの目の前でポンポンと服を脱ぎ一気に全裸になってしまう。
サンジは自分だけが全裸な状況にあれほどの屈辱を感じたことさえバカらしくなってくる。
しかも初めてマジマジと見たゾロのナニは・・・・・・・・。
前言撤回してえ。
おもわずそう思ってしまうもので。
サンジはゾロに見つめられるなかでおもむろに立ち上がり、
置きっぱなしだった瓶を手にするとスタスタとテーブルまで移動した。
タバコを抜き出してカチンと火を灯す。
フウ。
「オイ、テメエはヤローとヤったことがあるのかよ。」
一息つきながらゾロに問いかける。
「ねえよ。野郎とヤりたいなんざ思わねえ。
さっさと喰わせろ、サンジ。」
「矛盾した事をどうして同時に言えるかね。
最低だな。
ヤった経験もないのにそんな不躾なモンをムリヤリ突っ込むつもりだったのかよ。」
そう言いながらも頬に血が上るのがわかる。
サンジはこの男に触れられて嫌悪感よりも生理的なもの以前に熱を抑えるのに必死だった自分を知っている。
ゾロの目に、言葉にそうなっても構わないと思う程酔わされていた。
だが自覚した自分のこれからはあまりにも未知で、大切な航海にこんな過ちをひきずるわけにはいかなくて。
サンジは瓶の中身を口に含み飲み込む。
「オイ!」
ハッとしたゾロが慌てて腕を掴んだ時には遅かった。
「なんだよ。
悪いが、男同士で抱き合った記憶なんざオレも持っていたくないんでね。
第一忘れて構わない程度の記憶だがらこんな酒程度で忘れるんじゃねえの?
ゾロ、お前の気持ちだってヤりたくてしょうがない奴の都合のいい屁理屈かも知れねえんだぜ。
明日になったらサッパリした身体と一緒に気持ちもサヨナラだ、記憶付きでな。
テメエももう一度飲んでみせろよ、ゾロ。
オレを抱くなら飲んでから抱け。
きっと男を抱くなんて最悪の思い出だからよ。」
口端に酒をこぼしながらサンジは瓶をゾロに突きつけた。
「そうしないとてめえは安心出来ないのかよ。」
ゾロは掴まれたままかすかに震えているサンジの腕に力を込めながら言う。
「なんのことだよ。」
サンジは認めたくなかった。
ゾロは言われるままに酒を飲み干し、瓶をテーブルに転がした。
これ以上の問答は無用だとサンジを抱きすくめ口を貪った。
「ちくしょう。」
今夜のなにもかもを忘れたくはない。
煌々とした灯りに照らされる部屋の中、天蓋付きのベッドの上で白い裸体がのたうっていた。
「フッ、・・・・・・ァグッ。」
自分の膝頭が顔を挟むようにのしかかり、まるでデングリ返しを途中で止められたような姿勢でサンジは蕾を弄られていた。
『羞恥死』というものがあるならこんな姿勢にされて排泄をする穴にズプズプと杭のように舌をねじ込まれた時、自分は確実に即死だったろうと思う。
必死に制止しても顔が見たいと主張するゾロは何も聞く耳を持たなかった。
クチュ、ニチャ、クチュ。
散々に濡らされたソコは今2本もの太い指をくわえ込んでいる。
指が出ていく度に排泄感に似た感覚に襲われて緊張する。
まさかだが、この姿勢で排泄なんかしたら全部をスッ飛ばして自害してしまいそうだ。
それでもゾロのもう片方の手がマイ・ソンを嬲るせいで快感が腰で渦を巻き、どちらが快感でどちらがそうでないのか混乱しそうになる。
ゾロは分厚くてゴツゴツとした躰を持つ男だった。
背中に手を這わしてみても柔らかさのカケラさえ持っていない。
それなのにこの目に見つめられながら身体を暴かれるのに、身体でなく頭の方からも快感が駆け上がるなんて
死んでも知られたくなかった。
「ヒァンッ!」
サンジの腰からありえない程大きな快感が頭のテッペンまで駆け上がった。
ゾロは必死だった。
たかがセックスでこんな気持ちになるのは今までに1度もなかった。
己の細胞にもサンジにもあんな酒を凌駕するほどの何かを刻み込みたかった。
忘れたくないという心からも、張りつめたまま我慢を強いられるムスコからも急いた衝動ばかりが込み上げてくる。
だがサンジの蕾はとてつもなく小さく見えて、どんなに濡らしてほぐしても自分のムスコを受け入れられるとは思えなかった。
こんなにも艶めいた姿で、だが蕾の中でウニウニと指を動かすだけでビクつくサンジに、
それでも既に中断は不可能な自分に泣き叫ぶほど痛めつけてしまう姿を想像する。
その時サンジが一際大きな声と共に背中が反り返る程、躰を跳ねさせた。
サンジは自分でも信じられなかったのか目を見開いて呼吸を繰り返す。
ゴクッ。
ゾロが唾を飲み込み、もう一度先程の部分をなぞるように指を動かした。
「ファッ、ッ、そ、そこはよせ、ゾロ。」
「感じてんのかよ。」
ゾロはソコばかりを狙って指を突き込み始めた。
ズチュ、クチュ、ヌチュ。
片手で尻を更に割り広げ唾液で潤いを増やしながら蕾の入り口を刺激し、中の指でイイ場所をグリグリとコネ回し続けた。
「フッ、ッ、ツッ、ッ、ヤッ、アアッ、ヤメエッ!」
のたうつような快楽が大きすぎてどう受け止めればいいのかわからない。
腰の辺りに位置していた両手がバリバリとシーツを掻きむしるように動き、
シーツで手をくるむように巻き込みながらギュッと握りしめた。
「っちくしょう!」
この中で俺の指で感じてんのか、てめえは!
ゾロは取り乱すサンジの姿に煽られる続ける。
ズプッ!
ゾロは3本の指を蕾の中にねじ込み、イイ場所がある辺りをギチュギチュと掻き回した。
ヒュッ。
サンジから息を飲み込むような音がした。
張りつめたペニスは為す術もなくドプドプと白濁を放出した。
ゾロはハアハアと焦点の虚ろな目で見上げるサンジの太股にガプリと噛みつく。
「ァゥ!」
ビクンと躰がしなり、サンジの瞳がゾロを認識した。
いつの間にか指はひき抜かれ、丸い球体のようなものがサンジに押しつけれていた。
それがなんなのか考えるまでもなく、眼前にその光景が映っている。
こんな体勢で全てをヤる気かよ。
自分がレディにするような挿入とは全く違い、まるで杭を真上から打ち付けられる気分だ。
串焼きの鳥はいつもこんな気分なんかな、そんな考えが一瞬よぎったが言葉を発する間もなくゾロが宣言した。
「いくぞ。俺を見ろサンジ。」
ゾロが侵入を開始した。
ギシ、ギイ、ギシッ。
キングサイズのベッドが激しい動きに為す術もなく揺れている。
ズチュ、ブチュ、ズチュ。
何度も白濁を注ぎ込まれたソコは激しい水音を響かせていた。
「ンッッ、ツッ、アンンッ。」
膝を折り畳んだまま仰向けられたサンジはグロテスクな凶器を打ち下ろすように犯され、金糸の髪をパサパサと力なく振り乱した。
自らの腕を噛み締めて食いしばろうとした口は太い親指で掻き回されヨダレを零し、声を抑えることも出来なかった。
一度口の中を蹂躙する指に思いっきり噛みついてやったというのに、ゾロは血の流れる指で舌を挟み込み血を味あわせるように動かす。
こんな、たった一度の事でここまで身体が作りかえられてしまうものなのか。
無理矢理ゾロを埋め込まれ、揺さぶり出された時には苦痛と恐怖にのたうつだけだった。
ムリだ抜いてくれと頼むことさえ出来ずに、連続して襲いかかる衝撃に遠のきかける意識を引き戻される時間だけが続いた。
だが中に射精され水音をたてながらゾロが内部を探り始めると苦痛だけでは済まなくなった。
ゾロが探し出したポイントをえぐられる度に光が腰から頭を突き抜けた。
その反応に喜んだゾロはダしても終わりがみえない快楽という名の苦痛をオレに与え続けた。
オレは悦びで涙さえ溢れさせた。
認めたくないほど杭を打ち込まれる度に快感を受け止める身体をどうにかしたいのに頭は自我さえ消えそうで翻弄されるまま、まともな考えを紡げない。
ゾロは口から指を引き抜き、そのまま肩を押さえつけるように掴んだまま力一杯己の方へ引き寄せた。
只でさえ目一杯入っていたペニスをより銜え込ませ、そのまま腰を回しながら中を蹂躙する。
「ンアアッ!」
サンジが堪らず嬌声を上げた。
耳元に顔を寄せてその声を聞きながら、ゾロは全てを見逃すまいとギラつく目に焼き付ける。
サンジの声も、肌も、涙も、キスも、グニグニと蠕動して締めつける内壁もなにもかもが初めてのものだった。
骨一つ残さない程喰らいつくしてやりたかった。
何一つ忘れて明日になったら、また昨日までと変わらぬ関係のまま日々が続いていくのだろうか。
今目に焼き付けたものが全て消えて、コイツを当前という顔でどこかの女が触り味わうのか。
「ちくしょう・・・・・・・・畜生!」
冗談じゃねえ。
「ハッ、アッ、アッ、ア、ッアッ、ゾッ、もうッッッ、ヤメッ!」
強すぎる快楽は苦痛になり、あふれる涙を止めることさえ出来ない。
サンジがポロポロと涙を零しながらゾロを呼ぶ。
グルルと呻りながらゾロが言葉を発した。
「てめえは渡さねえぞ、サンジ。
てめえを喰うのは俺だ。」
グチュグチュとサンジのペニスをシゴきあげながらパンパンと音を響かせてサンジの中に打ち下ろした。
「フアアアッ。」
「クッ。」
何度も射精させられたサンジのペニスは力なくトロトロと白濁を押し出す。
ゾロも再びサンジの中へ注ぎ込んだ。
そのままカタカタと痙攣する長時間折りたたんだままの足を撫でさすり、
サンジの唇を動物のグルーミングのようにペロペロと舐めた。
ゾロはヒューヒューと喉を鳴らすサンジに気づき、一気にペニスを抜き去ると立ち上がった。
カウンターバーを物色して酒と水を取り上げる。
ゴロリと突っ伏したサンジは息を整え、最奥がトプリと白濁を流し出してくる感覚に堪えていた。
心は後戻り出来ない予感に怯え始めていた。
忘れられるという逃げ道を計算した上で、たった一度だけだからとこんな目を向けてきた男に溺れてみたいと思った。
だが本当に。たかがワイン1本でここまでのことを忘却することが出来るのか。
この男と向き合うというのに自分の打算はあまりにも浅はかだったのか。
「オラ、サンジ。」
ゾロは水を渡すと自分は一気に酒瓶を飲み干した。
サンジもダルくて身体を動かすのはひどく億劫だったが、喉を滑り落ちる水は乾きに比例するように美味だった。
とんでもないものからやっと解放されたのかと、サンジはタバコを吸う為に立ち上がった。
だが、影が覆い被さり腕を掴まれる。
「ゾロ?」
「勝手に終わってんじゃねえよ。」
「なっ!!!こんだけヤってなにが足らねえんだよっ!」
掠れた声で必死にサンジは言い募る。
「足らねえよ。全然・・・・・・・・・・お前が足らねえ。」
夜は明けないとばかりに魔獣は再び白い躰に喰らいついた。
ピチュピチュピチュ。
どこからか鳥の囀る声が聞こえ、窓から朝日が射しこみ始めたのを感じる。
ああ、今日は良い天気になるんじゃないかな。
物語は新たに始まった。